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バビロンのYAEPINのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.3
チャゼル作品には正直苦手意識が強かったが、本作はその苦手に感じていた要素がほぼ表に出てこず、非常に楽しかった。

『セッション』も『ラ・ラ・ランド』も、表層的な華やかさや強烈さによって、脚本の粗に蓋をしたような作品だと感じている。
もっと言えばその粗により、自ら設定した「ジャズへの愛」「映画への愛」といったテーマに対して不誠実になってしまっていたきらいすらある。
しかしながら本作は、観客の視覚と聴覚に与える情報のゲージをマックスまで振り切り、かつそのこと自体を主題とすることで、監督自身の思想にまたとない説得力を持たせている。

以前の作品では特定のキャラクターに寄り添おうとすることで論理に歪みが生まれていたが、本作は群像劇であるゆえにキャラクター1人に対する論理構築のカロリーも下げられている。

また、特に『ラ・ラ・ランド』で強く感じた「小綺麗さ」が完膚なきまでに叩きのめされており、徹底的に闇、不潔、狡猾を強く打ち出している。
同じ映画出演を志望する若い女性の部屋なのに、エマ・ストーンとマーゴット・ロビーの住む部屋の落差たるや。
これまで「小綺麗さ」が偽善的に見えてしまい、テーマへの不誠実を生む要因でもあったので、良い方向転換だったと思う。

セルフプロデュースの思い切った舵切りを成し遂げていて、素晴らしい作品だった。


ただ、これだけ画面に情報を詰め込んでいるにもかかわらず、何度か説明的なセリフが挟まれていて、そこは説教臭く感じてしまった。
それまで画面で十二分に構築されてきた激動が急に陳腐化してしまう瞬間だった。
そういった時には大抵、『ラ・ラ・ランド』の”City of Stars”を彷彿とさせるチャゼル節(正確にはジャスティン・ハーウィッツ節)が流れるので笑ってしまった。

主人公たちが半狂乱の喧騒の中で時折見せる、恍惚とした虚ろな表情だけで、映画という何か大きな世界が持つ魔力は語り尽くされている。

冒頭のパラマウントのロゴはスタンダードサイズのセピアカラーで始まったので、アスペクト比を時代に合わせて切り替えていくスタイルかと思いきやそういったことはなく、拍子抜けだった。

ブラピとマーゴット・ロビーはもはや化け物と言うしかない。
圧倒的な存在感を帯びながら、それを個としてではなくキャラクターの存在感に落とし込んでいる。
ブラピのイタリア語は『イングロリアス・バスターズ』を思い出して笑った。

散々名前だけで恐れられていたカジノのドンが、トビー・マグワイアなのにも大爆笑した。こちらもこちらで化け物なのには間違いない。
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