スペクター

バビロンのスペクターのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
-
アメリカ映画史の変遷と壮大さを描こうとしているのは伝わるし、音楽のパワーも相まって暴走機関車のように突っ走る映画だから最後まで見れた。
けど、デイミアン・チャゼルという人の作家性がね…。
①主人公が夢に向かってひたすら突き進む。
②そこには必ず音楽(ジャズ)がある
③1人か2人だけのとにかく狭い世界になるラスト。
④才能を開花させる。または夢を叶えるのだが、そこに第三者や環境は全く関与していない。

良くも悪くも相変わらずというか、ネクストレベルいった感じがないとうか。
群像劇なら、シドニー、レディ-・フェイ、エリノアのいきさつをもう少し丁寧に描いてもいいんじゃないか。

ブラッド・ピット演じるジャック・コンラッドの描かれ方は丁寧で、トーキーの登場と共に彼の名声は廃れていって、足掻くんだけど順応できない様が哀愁漂って感情移入できる。だけど、その過程でもマニーやネリーとの絡みがろくに無いのがもったいない気がする。

ネリーも世界恐慌以降、締め付けが厳しくなって風紀的に問題があって追いやられたというより、ダメ人間として描かれていて、感情移入できないイラつかせるキャラクターだった。マニーに対して恩を仇で返すし、マニーと逃げない選択を取るにしても黙って消えるはないだろうと思った。

マニーことマヌエル・トーレスは20年代の狂乱の世界に飛び込み、アシスタントからプロデューサーに出世していくけど、そこは才能と運だけで彼の人生経験が活きているという描写はない。
彼に関して一番納得できなかったのは、映画業界から追われた理由がね、ネリーの尻拭いをしようとして失敗したからというオチ。助かり方もご都合主義が過ぎるというか。
ただマニーを演じたメキシコの俳優、ディエゴ・カルバは悪くなかった。彼が実質この映画の主役だから、アメリカンドリームを今後叶えるのかどうかには注目。

他にも突っ込み所としてはセックスやドラッグが出てくるのは良いとしても、糞や吐瀉物が出てくることに対する必然性がない。デイミアン・チャゼルにそこは求めていなかった。優等生が無理して悪いことしてみた感じがある。
ブラックコメディのテイストもあるけど、低俗で上手くはない。

サイレント映画がとにかく無秩序で滅茶苦茶だという描かれ方をしているけど、実際はそれだけじゃないし、当時の映画技法に関するアプローチがないのも疑問。監督はそういう時代考証には興味がないと見受けられる。サイレント映画がそれらしく見えないし、サイレント映画へのリスペクトが感じられない。
ジャーナリストのエリノアがジャックにこの映画が言いたいであろうことを説教たれるシーンがあるけど、それはジャックが足掻いた末に悟ったことにした方が良かったのでは?

最後マニーが映画館で見た映画を見て自分の関わっていたことが偉大なモノの一部になっていたと知り、感動するのは良いとしても、あれだけでそれを説明するのはどうなのかな?

体感的には3時間とは感じなかったけど、この内容にしてはやっぱり長いかな。2時間40分くらいにはできたんじゃない?DVDや配信だと途中で見るのをやめちゃう人がいるかも。

見る価値がないとは思わないけど、偶然にも同じアメリカ映画史を描いた「ノープ」と比べても予想のやや斜め下。興行的にこけている理由もアカデミー賞にノミネートされなかった理由もなんとなく分かった。
スペクター

スペクター