YasujiOshiba

バビロンのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
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U次。23-137。なぎちゃんと事前情報なし。3時間だけど退屈はしなかった。思い出すのはボクダノヴィッチの『ニッケルオデオン』(1976) とかマルコ・フェッレーリの遺作『Nitrato d’argento(硝酸銀)』(1996)。そしてもちろん『雨に唄えば』(1952)だけど、なんと最後にはこの名作に反則まがいのオマージュを捧げちゃってる。

『ニッケルオデオン』もそうのだけど、最初のスラップスティックなサイレントの撮影現場がよい。あれぞバビロン。神をも恐れぬ高い高い塔を建てるハリウッド。けれどもやっぱり、しばらくすると言語が問題となる。肉体だけではなく声を響かせなければならないとき、古いサイレントの塔は崩れ落ち、新しい何かが立ち上がる。

ほんのニッケル硬貨一枚(5シリング)で映画を楽しめたニッケル・オデオン(オデオンはギリシャ語の「劇場」)は、衛生状態も悪く、映画の上映の合間には、劇場内に集毒液が巻かれる有様で、「下水のような匂いがする」(バート・レイノルズ)場所なのだけど、そこには夢があった。

サイレントだからまだ言葉がない。だからこそ夢を語る余地があった。スクリーンにそんな淡い場所を開くのがサイレントのスターたち。まずはちょび髭の酔っ払いジャック・コンラッドはブラッド・ピットが依代。貧乏だけど自分は生まれながらのスターと信じて成り上がるネリー・ラロイの野生美はマーゴット・ロビーが体現。

そしてバビロンはあらゆる種類の人間の坩堝。だからメキシコのルーツのマニエルはマニーと名前を変えてアメリカ人のような成功を夢見て、夢工場の映画スタジオに成功を求める。演じるのはディエゴ・カルバだけど、彼がいわば狂言回し。『ニュー・シネマ・パラダイス』のトト。

それから音楽。トーキーといえば音楽であり1927年の『ジャズ・シンガー』。有名な「Wait a minute, wait a minute. You ain't heard nothin' yet! 」も聞くことができるから、新しい時代のスタートしてのミュージシャンを出さないわけにはゆかない。だから黒人トランペッターのパーマー(ジョヴァン・アデポ)が、トーキー映画が撮るべきは「自分たちさ」と。

でもやっぱり前半が良すぎた。後半の盛り上がりがないんだよね。『雨に唄えば』にはそれがあった。ここにあるのは取り残された人々へのエレジー。

デイミアン・チャゼルはどうにもエレジーというか、苦いエンディングを甘く撮りたがるところがある。テーマは面白いし、映画も面白くとるのだけれど、厳しさというか苦々しさというか、イタリア語でいえば「cattiveria」を隠し味に使う。

そりゃ人生には善と悪があるのはわかるのだけど、ちょいと悪趣味にすぎるところが、トンガリすぎというか、まだ若い。でも愛はある。そこがよい。少なくともトビー・マグワイアは、クモ男ならぬ吸血鬼みたいなボスがよかった。だからできれば、あの地下に降りてゆくシーンを、今度は全く別の映画で怖がらせてほしい。

甘くてメタメタでサブテキストを読むことを要求するようなエンディングではなくて、ただただキャーキャー叫んで、映画から血がしたたってくるようなジャンル映画。そういうの撮りたくないだろうけれど、撮るべきだと思うな。できれば90分でね。

追記:
あ、そうそうレッチリのフリーに似ている人が出てるなと思ったら、なんと本人だったのね、わろた。ハーヴェイ・ワインスタインも出てるかと思ったけど、あれはさすがに違う人だよね。
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