むぎちゃ

アンテベラムのむぎちゃのネタバレレビュー・内容・結末

アンテベラム(2020年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

最大の謎は、結局タクシーの運ちゃんは喰えたのか否か…


映画って観る側も世代を追うごとに目が肥えてると思うんだけど、まだまだ映画表現の進歩は止まらんね。
むしろ色んなパターンを観てきたからこそ「あー、こういうパターンね」って客心理を上手いこと利用した手法か。
まだここまで完璧に手のひらで踊らされる映画作ってくれる事に感謝感激。

監督はこれが長編デビューらしいが、マジでヴィンチェンゾ・ナタリの再来かよってくらい堂々としたスリラー作ってくれたな。

オープニングの長回しからの刷り込みでミスリードは始まってたと。
さらにこれみよがしに見せる無傷の腰、レストラン前の馬車、随所にミスリードを誘う要素を見せて…からのあの中盤ね。
全てがひっくり返る『転』の展開は本当に舌を巻く。

スマホの呼び出し音も、1度目と2度目で観客のリアクションが鏡写しみたいになる仕組みも面白い。
1度目⇒「え?なに?…あ、場面転換ね」
2度目⇒「あ、場面転換ね…え?なに?」

突拍子も無い展開ではあるが、本格ミステリで言うところの神の視点のフェア性を保ちつつ、自殺しちゃった人の「あなたを知ってる」とか一応ヒントは設置してくれてるのも後から効いてくる。

プラントは綿を作る施設に非ず(なんなら燃やしてたし)、差別に闘う黒人を、あの時の立派な奴隷に作り変える施設だ。
空(自由)を見上げては黙って収穫に戻る、あの生気の抜けた彼らを見よ。
それこそヴェロニカすら抗いより沈黙を選んだ訳だ。

んで最後は解放の先導者なように戦場を駆け抜けた訳だが、あそこのカットめちゃくちゃ綺麗だったな。すんごい力入れたカットだと思う。

「目には見えないが、我々のような人間はまだまだいる」ってセリフ、そうなんだよね。
ホテルのフロントだってそうなんだよね。レストランもそうなんだよね。全然いるんだ。
そういう意思・意識がまるで「DNAに刻まれている」かのように。

で、気になる要素。
エレベーターに乗り込んできたあのシャイニング娘はなんだったのか。
「喋ると怒られちゃうよ」や引き摺っている人形を見ても「そういう思想の人間」であることは間違いないわな。
ただどこから来て誰に連れてこられたのか?
作中の組織(名前忘れた)と考えると…あまり整合性が取れない気がする。
この時点ではまだ観客は「昔の出来事が現代にも滲み出てくる」的なちょっとオカルト系を想像していただろうから、そのミスリードを後押しするための舞台装置ってだけと考えると、悪い意味で腑に落ちるか。
ただ、作中の誰もが関知しない第三の存在だとすると…とても怖いな。怖いし例のセリフとも合致するし、この辺のふわっとした答えあたりが個人的には好み。


タイトルはズバリ『南北戦争前』の意味との事だが、さぁEがひっくり返ると…?
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