プリオ

アンテベラムのプリオのレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
4.0
見事に予想を裏切られるトリック映画。

それだけでなく、「多様性」という流行りの題材を、南北戦争や黒人奴隷という歴史上の出来事と上手く絡めた奇作でした。

現存する人種差別的な思考。

それは、黒人奴隷による歴史の名残なのか?

それとも誰の心にも少なからず存在する人間の本質的なものなのか?

昨今、人種だけでなく、性や格差における差別をなくそうとする動きが活発に推し進められている。

そして同時に、そのムーブメントに反発するように増幅する差別意識があるような気がする。

脈々と無数に存在する差別意識たちが、この世界に、我々の思考に、根を生やしているのではないか、と。。。

前時代的な思考が全て悪いわけではもちろんないが、明らかに他者に対する尊重が欠落した思考は、ない方がいいし、なくしていくべきだと僕は思う。

でも、それでも、差別的な前時代的思考から抜け出せない人、固執する人がいるのも事実としてあって、なかなか差別はなくならないのが現実である。

その本質は、自分の立場を優位にしておきたいといった安心安全を確保するためだったり、自分たちの居心地の良さを奪われないためだったり、相手を下に見ることで優越感に浸るためだったり、するだろう。

それは、この世界が、資本主義社会つまりはピラミッド型の社会構造をとっていることと関係しているため、完全になくすのはなかなかに厳しい話でもある。

でも、だからこそ丁寧にいろんな視点で物事を測れるように、世界の見方を勉強しなくてはいけないと思いましたね。


あと、一つ印象に残ってるシーンがある。

それは、僕の中に偏見の目があることを認識させるもので、思わずハッとさせられたシーンである。

どんなシーンかというと、
お世辞にも可愛いとは言い難いおデブの黒人女性が紳士なイケメン白人男性を意気揚々と振る、といったものだ。

僕はこのシーンを見ている時に、ほんの僅かながら苛立ちを覚えてしまったのだ。

なぜなら、その女性に対して「自分のことを棚に上げて何様のつもりだ?」というツッコミが浮かんだからだ。

しかしだ。
しかしである。
よくよく考えると、よくよく見ると、黒人女性は素直な意見を言ったまでだったことに、僕は気がついたのだ。

そう、僕は曲解して苛立ちを覚えてしまったわけであり、それはまさに外見差別や人種差別の視点で見ていたからに他ならなかったのだ。

そして、僕は苛立ちの奥に潜むある違和感の正体にも気づいた。

その正体とは、慣れ親しんでいないものを見た時に感じる拒絶だ。

こんなおデブで可愛くない黒人が、堂々とイキイキした様子でイケメン白人に意見を主張するようなシーンを、シンプルに僕は映画で見たことがなかったのだ。

それは、黒人と白人の立ち位置逆転現象とも見てとれる。

本来、こういったキャラは白人の美女がやるというのが見慣れたシーンであり、そうであれば苛立ちも違和感も抱かなかったんだと思う。

実際、苛立ちは、そういった自動運転化された己の思考が外的に刺激されたことがきっかけで生まれるんだろうな、と気づかされました。

僕は多様性とはまだ程遠い考え方をしているんだ、と。。。

そんな感じで、すごく気づきのある作品になっているのも良かったし、どんでん返しサスペンス映画としてかなり面白い類だし、南北戦争や黒人奴隷制度、そして現在も媚びる差別について、自分自身の差別意識についても、考えさせられる面白い作品です。
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