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アンテベラムの消費者のレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
4.8
・ジャンル
スリラー/サスペンス

・あらすじ
南北戦争の最中、奴隷として南軍に仕えながら脱走の機会を伺い続けるエデン
博士号を持ち黒人の人権の為に活動する作家のヴェロニカ
数奇な運命が1人の女性に与えた2つの顔
その裏にあったのはある白人の男による謀略だった…

・感想
ミュージシャンとしても長きに渡って第一線で活躍するジャネール・モネイを主演に迎えたスリラー映画
南北戦争時代と現代をシームレスに繋いだ一風変わったストーリーとなっている作品

本作は南北戦争の中で脱走の指導者として機会を伺い続ける奴隷女性エデンの物語から幕を開ける
そして前触れもなく作家ヴェロニカの物語へと移っていく
2人を同一の役者が演じ、先祖は夢に取り憑くという祖母から聞かされた話などもある事から初めは「ラストナイト・イン・ソーホー」みたいな内容なのか?と思いきや後半で明かされた真実は予想外の物だった!
とにかく端々に配置されたミスリードが巧いし、南北戦争パートの直接的な差別と現代パートの些細な言動に滲む差別のコントラストも問題が改善された様でされていない事を生々しく感じさせる素晴らしい物だった

現実社会においてもアフリカ系への人種差別というのは奴隷制が撤廃されても尚無くなっておらずいわゆるゲットーやプロジェクト(貧困層向けの団地)で暮らす事を余儀なくされ生きる為に犯罪に手を染める人々は多い
そしてその犯罪を根拠に差別を正当化する白人やそれに追従する他の人種の者達も少なくない
この事実を示す上で後半のどんでん返しも発想として面白いし変わった様で変わっていない社会の構造がいかにグロテスクかを強く感じさせられた

加えてどんでん返しである真実の明かされ方も現代と南北戦争時代のギャップを小出しにして利用していて無理矢理感がなく、それでいて全てが繋がる感覚もしっかり与えてくれて言う事無し
差別意識と倫理の間で揺れる伍長ダニエルや“現代”における親友の白人女性サラの存在も無闇に白人全体を糾弾するのではなく権力を持った怪物とそれが生み出したシステムの問題点を指摘していて論理的な主張が一貫していた点も印象的だった

惜しい点は作品自体よりもホラー性を前面に出したプロモーションだろう
題材である奴隷制及びプランテーションという白人達の生んだシステムは確かにおぞましい悲劇ではある
ただ本作ではその苛烈さを描いてはいるものの恐怖より苦痛や怒りに焦点が当てられているので人間の恐ろしさという物は感じられるもののホラーのそれとは少し違う
スリラーかも若干怪しくあくまでサスペンスとして素晴らしい作品だと個人的には感じた
それの何が問題かと言うとホラー/スリラーを避ける人というのはどこにも一定数いるのでせっかくのメッセージ性を伝えられる対象を減らしてしまっていないか?という事
作品が面白く意義深いだけにそこだけは勿体なく感じた

それ以外は気になる部分も特に無く細かい部分までこだわりの行き届いた良い内容だった
名作と言って差し支えない一作
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