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トルーマン・カポーティ 真実のテープのすずすのネタバレレビュー・内容・結末

3.2

このレビューはネタバレを含みます

未完のゴシップ小説「叶えられた祈り」(新潮文庫・刊)を軸に、戦後アメリカ文壇の旗手トルーマン・カポーティの人生を追ったドキュメンタリー映画です。『ティファニーで朝食を』『冷血』の原作者カポーティだけあって、映画ファンも楽しめるネタも多い映画になっています。

オンライン試写にて鑑賞。
戦後アメリカの文壇で、カポーティほど有名な作家を知りません。ユダヤ系の代表格ソール・ベロー、「走れウサギ」のジョン・アップダイク、SF作家で『スローターハウス5』のカート・ヴォネガットJr、「重力の虹」のトマス・ピンチョン、「飛ぶのが怖い」の女流作家エリカ・ジョグなどが代表的な作家だと思うのですが、こう見ると、カポーティの大きさは破格です。戦前の『誰がために鐘は鳴る』『老人と海』のヘミングウェイと並べる唯一の存在のように思えます。

映画はオーソドックスに、彼の人生を時系列で追っていきます。
親がなく、アラバマの田舎で伯母に育てられ、幼少期からゲイの友人をもっていました。ヘップバーンが演じた『ティファニーで朝食を』の主役ホーリー・ゴライトリーのモデルは、カポーティを捨て街に出ていったパーティ好きの母ニーナで、カポーティには上流人種への嫌悪感があった事が語られます。
実在の殺人鬼を5年以上取材してまとめた、ノンフィクション小説『冷血』が映画化され、またも話題となります。実録なのに小説という新たな小説の形式を開拓、それに続き「Vanity Fair」に抜粋で発表された「叶えられた祈り」です。

カポーティについて語るのは、養女ケイト・ハリントン、映画化された『再会の街・ブライトライツ・ビッグシティ』の原作者ジェイ・マキナニーや、もう一人のノンフィクション小説の旗手ノーマン・メイラーなど、有名無名が並びます。

「叶えられた祈り」は、上流階級の主に有閑マダムたちの赤裸々な実話を暴露するネタのオンパレードとして編まれた小説で、未完に終わっていますが、カポーティにとって、それはまるで母への復讐、上流市民へのしっぺ返しであるかの様です。女流評論セイディー・スタインは、これこそ「リアリティショー」の原型という見解を示します。

そして晩年、寡作の小説家は全て書きつくしたかのように、執筆よりテレビ出演に忙しくなります。遂には、カポーティ本人の役で『名探偵登場』に登場、古典的な小説家ではない、新たなトリックスターは、伝説のクラブ「54」で薬漬けで遊び歩き、自由を謳歌。70年代以降、小説は発表していません。

つまり、2005年の映画『カポーティ』(フィリップ・シーモア・ホフマンがオスカー受賞)が小説「冷血」の生い立ちを描いたように、このドキュメンタリー映画は「叶えられた祈り」の生い立ちを追う映画だという意味で、映画として補完関係になっています。
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