けーすけ

星の子のけーすけのレビュー・感想・評価

星の子(2020年製作の映画)
3.2
ちひろ(芦田愛菜)は未熟児で生まれ、湿疹などに悩まされる日々に両親は苦しんでいた。ある日、父親の会社の同僚から「それは、水が悪いんです」と言われ、不思議な力があるという“水”を渡された。両親はその水を使ってみたところ、ちひろはみるみる調子が良くなっていく。その力をすっかり信じ込んだ両親は水を販売している宗教にどっぷりとのめり込んでいったのであった。時は流れ、ちひろは中学3年生になり・・・





『日日是好日』や『MOTHER』の大森立嗣監督作品。『MOTHER』では子供の育児ができない母親役の長澤まさみを映し出し、演技だと分かっていても彼女の事が嫌いになりそうな怪演を切り取っていましたが、本作でも“なんとも気持ち悪い”空気感を映し出しておりました(誉め言葉です)。


両親は宗教にどっぷりはまっており、頭の上にタオルを載せて水を浸し、それによって風邪をひくことが無いと豪語。水は何にでも効くと信じ切っている。
そして、ちひろにとってその“水”は幼少の頃からずっとそばにあり、それが当たり前。学校でも普通に飲料水として飲んでおり、クラスメイトから何かを言われる事も特にない。


そんなちひろは新任でやってきた数学教師の南に一目惚れ。ある日、南はちひろの両親が水の儀式をやっている所を見かけ、ちひろの両親と知らず不審者呼ばわりしまう。

それまで全てがちひろの中では当たり前であったが「果たしてこれは正常なのか」と心の中に揺らぎが生まれる。そんな中学3年生のちひろの揺れ動く感情を切り取った物語でした。



終始かなり淡々とした感じで、これといって大きな事件も無いのですが、父親役の永瀬正敏、母親役の原田知世の絶妙な演技によって、洗脳された両親の何とも言えない不気味さにゾワゾワさせられました。


そしてこの映画、余白というか空白が多いように感じたところもあります。ちひろが生まれた頃はそこそこに大きな家だったのですが、現在は古びた平屋の家になっており、おそらく宗教にお金を注ぎ込んで貧しくなっていった事が想起されます。

また、ちひろには少し年の離れた姉がいるのですが、ちひろが小学生の頃に家出し以降帰ってこないという状況。
家出に関わる話や、両親とケンカしたという描写もあるのですが、どうして家出したのかや、どうやって生きて行っているのかといった詳細は語られません。間違いなく両親の宗教に対しての行動なのでしょうが、そのあたりの説明の少なさも観ている側へ想像させるように投げかけているのかな、と感じた次第。

ラストの描写もちひろの心情をどちらとでも捉えさせられるような、フワっとした展開だったので好き嫌いは分かれそう。



ちひろを演じた芦田愛菜、久々に見ましたが演技力はさすがですねー。表情での感情の機微や、友達との些細なやりとりも自然で役にハマってたと思います。

ちひろの姉役、蒔田彩珠。『朝が来る』でも好演してましたが、本作でも短いながら存在感を発揮していてこれからの注目の一人です。

ちひろ曰く“東洋版エドワード・ファーロング”の新任教師・南。岡田将生のマジメそうだけどちょっとヤバい奴って演技が絶妙。終盤の教室でのシーンは必見です。(因みにエドワード・ファーロングは『ターミネーター2』のジョン・コナー役が有名)


宗教団体の若い幹部役で高良健吾が出てましたが、ちょっとアブなそうな人物を演じたらめっちゃハマりますね。こういう人、実際にいそう。笑

同じく宗教団体の上層信者で黒木華。これまた絶妙な新興宗教感がビシバシ出ていて笑えました。これ、何か参考にされたところとかあったりするのだろうか…。


あと、水の入っている「金星のめぐみ」という商品、成分とか色々含めてラベルにどんな事が書いてあるかが気になって仕方なかった。笑

そういえば唐突なアニメーションはなんだったのだろう…。理解できなかった。。。


「鰯の頭も信心から」という諺もありますが、他人からしたらどうでもいいものでも、信じる人にしたら信仰が常識で当たり前って事なんですよね。宗教にのめり込む両親の姿に胃のあたりがモゾモゾさせられる映画でした。



2021/04/26(月) TSUTAYA DISCAS定額レンタルにて鑑賞。
[2021-039]
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