このレビューはネタバレを含みます
こちらも素晴らしいドキュメンタリー。片渕須直監督、本当に頭があがらない。
3年前に大いに感動し、原作も何度か読んだけど、ここまで解釈が深いとは思っていなかった。
こうの史代も片渕さんも凄いけど、このドキュメンタリーにこうのさんが一切登場しないのが少し気になった。シャイなのかな。原作者で創造主だしなんだかんだ一番の功労者だと思うけど。
東京国際映画祭でまだ作品が完成していないと監督が言うOPから始まる衝撃。そして12月14日くらいまで結局やっていたという。
こちらの予想を遥かに超える片渕監督の恐ろしいリサーチへの執念、細部へのこだわり、原作の解釈の深さ(終盤に出てくる”すずの対比となる存在の女性”の解釈には唸らされた)にまず驚かされ、一日も休まず制作、作品PR、海外にまでわたるイベントへの参加など彼の恐るべき仕事ぶりに驚かされる。あんなにコマとコマの間を考えることないなぁ。たしかにすずさんの妊娠判別法はどうやったのかとか気になるっちゃ気になるけど。
スタッフの面々も声優たちもコトリンゴさんもみんなすげえ。
花澤香菜のことはこれから花澤先生と呼ばせていただきたい。あの咳の演技、尋常じゃない。
声優への演技のつけ方の場面が一番見ごたえあったかな。
音のこだわり、神に包んだ小松菜の種を広げた時のコロコロの感じとか、輝ちゃんとの会話シーンでの扉を閉めるスピードとか全部にこだわる。こりゃいい映画出来ますわ。念のこもり方が違う。
こだわるってことが監督に一番必要な資質かもな。
片渕監督ら作り手だけでなく、作品に魅了され何度も様々な映画館に足を運ぶファン、片渕監督が時代考証のために毎回頼る謎の人物、この映画によって活気を取り戻した地方の小さな映画館の経営者や映画ファン、戦争や祖父母への見方が変わった青年など、様々な”片隅の人々”にスポットが当たっていく。特に土浦のあの映画館いいなぁ。秋田の映画館も暖かそうで良かったけど。
そして海外上映まで。一体どこにそんなスケジュールあったんだ監督。死ぬぜ。
海外では字幕で映画を見る文化があまりないみたいで、だいたいの国で吹き替え上映されていたけどそれがちょっと残念。『風立ちぬ』の庵野さんと同じで、のんの声はもう唯一無二すぎる。
「できるまで産むんじゃろう」ってとぼけた声で言うあの場面に癒されつつ、彼女が置かれる状況の悲哀もしっかり出していて名演としか言いようがない。っていうかのん=すずさんだわ。
そして最後に出てきた片渕監督の次回作の構想の話にびっくり。まさかの清少納言。
なんとなくかぐや姫の物語に感化されたかな。
恐ろしいこだわりで、定子と清少納言の関係性とか宮中とか徹底的に再現するんだろうな。楽しみ。
とにかく『この世界の片隅に』が好きな人は必見!