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Luz(原題)のhorahukiのレビュー・感想・評価

Luz(原題)(2018年製作の映画)
4.2
それは本当の自分か?

覚束ない足取りで警察署にやってきた女性ルズが突然おかしなことを喚き始める。いったい何があったのか…。担当刑事と通訳の立ち会いのもと、医師が彼女に催眠術をかけて記憶を探ろうとする。しかしそれはルズを狙う悪魔の思う壺だった…。

もともと短編映画として構想されていたものを長編(70分程度)として完成させた卒業制作映画。2018年製作でありながら、全編から漂うのはまるで70年代に作られたかのような手触り。16ミリフィルムで撮影されたザラついた映像と温かみのない背景美術、そして遠近感を狂わせるようなサウンドデザインが相まってカーペンターとかクローネンバーグを見てるような感覚になる。

監督が徹底的に調べたと語る通り、催眠術や催眠療法が本作の大きなウェイトを占めている。しかしそれだけに留まらず、映画そのものがルズの内面にメスを入れるかのような精神分析的な内容となっており、催眠術と悪魔の二大要素を掛け合わせることで、人の内面の奥底(過去の記憶)から「魔」を引き摺り出し現界させるという高度なミックスを成し遂げている。

ルームメイトを媒介に悪魔を呼び出そうとしてカトリックスクールを追い出された過去を持つルズは、同級生の女と偶然再会したことがトリガーとなり過去(記憶)への扉が開く。しかしそれはもう悪魔の手中。記憶に分け入るメスである催眠術を悪魔が主導し、それが深層に近づけば近づくほどに空間に霧が濃くなり始める。そして覆い隠されたその先には彼女がカトリックスクールで捨て去った欲望としての真なる自分(魔)が待ち受ける。本作は様々な解釈を許す幅のある作品だが、カトリックに限らず社会に溶け込むための「教化」と原石的感情(魔)の話のように私は感じた。

そして、本作は演出面における見どころが非常に多い作品でもある。『インセプション』が多重的な夢の階層を描いたように、本作はルズの多重的な記憶の階層を催眠術によって現在進行形の事象のようにその場に顕現させ、それによって彼女の内面の奥深くへと分け入っていく。催眠術が行われているのは警察署の何でもない会議室。そこに彼女の過去の記憶が時間を超えて現れ、互いに交錯し始める。入り乱れた過去は現在からも干渉を受け、また現在にも影響を与え、会議室を過去も現在もグチャグチャに混ざり合った悪魔的異空間へと変貌させる。「観客を催眠術にかけようとした」と監督が語るように、虚実の境目のなくなった空間に引き摺り込まれてしまうようなパワーを感じた。ソファの背もたれが微妙にフレームに入る構図からスタートすることで、画面内の出来事を野次馬的に覗き見る感覚を観客に植え付けてから、矛先をこちらに向けてくる意地の悪さがそれに拍車をかけている。

突然服を脱ぎ出し女装したり、そうかと思えば全裸になってブランブランさせながら歩いてくる博士のイカレ演技は何回見ても笑えるし、その博士の凶行にガラス越しにビビりまくるハゲ通訳者のリアクションも最高だった。結局ビビって自滅したし🤣でもラストシーンはマジでゾクゾクした。
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