幽斎

ワールドエンドの幽斎のレビュー・感想・評価

ワールドエンド(2019年製作の映画)
4.0
恒例のシリーズ時系列
ワールドエンド「AVANPOST」The Blackoutインターナショナル版152分
ワールドエンド完全版【PHASE-1 ブラックアウト=人類文明停止】104分
ワールドエンド完全版【PHASE-2 パンデミック=生物兵器攻撃】96分
ワールドエンド完全版【PHASE-3 アライバル=侵略者来襲】99分

泣く子も黙るSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」比肩するロシアの国宝級「惑星ソラリス」原作小説をリメイクした「ソラリス」Steven Soderbergh監督、James Cameron製作、George Clooney主演とハリウッドの才能総出で創られた程リスペクトされた。Andrei Tarkovsky監督以降はソビエト崩壊に依り映画も衰退の一途を辿るが、Vladimir Putin大統領から映画も息を吹き返す。

決定打はレビュー済「アトラクション 制圧」ソニー指導の下に製作され世界中で大ヒット。そして「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」ロシア映画に改めて触れた方も多いだろう。2作品の健闘で、日本でもロシア映画の流通が活発化。本作に続いて同時期に作られたレビュー済「アンチグラビティ」そして最新作「スプートニク」へと続く。VFXが素晴らしい理由は「アトラクション 制圧」のレビューと重複するので割愛させて頂く。ロシア文学好きの私も、最近のロシア映画の潮流は素直に嬉しい。

本作はロシア国内でシリーズ放送として企画されたが、ロシア映画の好調を背景に映画化の話が持ち上がるが、脚本を担当した「デス・レター 呪いの手紙」Ilya Kulikovには寝耳に水、反戦を謳うテーマの修正を余儀なくされた。映画化は「魔界探偵ゴーゴリ」シリーズEgor Baranov監督主導で行われ、プロットの修正、作品のイントネーションが変更され、3つのセグメントに分けて製作。撮影は1年にも及び、長尺の編集は困難を極めた。

原題「AVANPOST」ルーマニア語で「前哨基地」。国際版は「The Blackout」本来は停電だが、描かれる電磁パルス攻撃は実在する。北朝鮮情勢が緊迫し日本海に原子力空母が集結した時に日本とアメリカが連携、パルス攻撃で北朝鮮の発電所を停止させ、レーダーを無力化した上でグァムに居るステルス爆撃機B-2スピリットで対空砲を破壊、嘉手納基地に居るステルス戦闘機F-22ラプターで航空戦力を殲滅、次に岩国基地に居るステルス多用途機F-35ライトニングで海上戦力を無力化。空母ロナルドレーガンと空母いずもが、沖合に接近して地上戦力を攻撃。ここまで3日余りを想定、Donald Trump大統領は局地戦よりも経済戦争を重視した為、この作戦はデリートされた。

ブラックアウトが発生し、ロシア西部だけが「生存サークル」として被害を免れた。しかし、戦争と言うタクティクスで、其処だけ生き伸びても意味が無い事にお気付きだろうか?。軍が国や民を守る為に作られたとしたら、軍を守る為の軍には存在価値が無い事を、序盤のシークエンスで描いてる。ポイントは世界が滅亡した等と大風呂敷を広げる訳では無く、ロシア国内が終末の危機と言う描き方。俯瞰的な要素が狭い点がロシアらしいが、説明不足な演出で分り難い。それを助長するアルバトロスの邦題にも異議アリ!。

世界最強、容赦ない事で知られるロシアの特殊部隊「スペツナズ」監修。スペツナズの特徴は戦闘能力だけで無く、平時でもスパイ活動やサボタージュ、要人の暗殺など幅広い任務の一方で、アメリカの様にロシア人の救出の為に国外で活動する事は無い。無敵のスペツナズに対抗するのが知的エイリアンですが「自分達は神の存在だ」と嘯くのが実にロシアらしい。UFOの存在を国が認めると、人間が信じる「神」よりも強い存在、全ての宗教の存在価値が根底から覆される。そんな事は口が裂けても言えませんよね、Joe Biden大統領"笑"。画期的なのはスペツナズが属するロシア参謀本部情報総局GRU(旧KGB)、脚本に介入しなかった。開かれたロシアを象徴するエピソード。

資本主義を受け入れ経済格差が国民を苦しめる実像を投影しながら、文化的繁栄の恩恵に授かれない人達が、本作の主人公。描き方が悲しみを歌った詩の様な文学的エッセンスさえ感じさせる。ロシア国民と言うのは、アメリカや中国以上に「自分の国は強いんだ!」と思いたい願望が常に有る。Putin大統領の支持が高いのも、狂犬で無いと統治出来ないジレンマとも言える。底辺に流れる思想を考察すれば、現在のロシア経済の低迷と諦め。旧ソ連時代のトラウマに脅える不合理。ソ連復活を心の底で願う虚無主義。それをエイリアンに准えて風刺と捉えれば全体像も見えてくる。

しかし、長い"笑"。ロシア映画に理解の有るつもりの私でも長過ぎ。製作会社の不手際で北米では一切上映されなかったが、仮にコンペに出展しても「馬鹿気たプロットだ」と一笑に付されたろう。だが後半の虐殺とも言える戦争は、革命前後のテルミドールと反ユダヤ主義。武力で勝るドイツ軍を粛正する独ソ戦争を想起させる。其処で思い出すのがエイリアン=神と言う考え方。ロシアはインドと並んで「霊性の国」生活にもロシア正教が根強く反映される。其処を見誤らずに観れば、日本人でも違う角度のアプローチに気付く。

国際マーケットに出るにはプロデューサーの力は欠かせず、それが「不倫する裸体」誰が見たんだよ、としか言えない製作陣ではムリ「アトラクション」シリーズ「アンチグラビティ」の様な成果を得られず、惨敗を喫した。諦めが悪いのか、作品の意図を組んで欲しいと、完全版3部作をリリースしたが、大河ドラマの総集編じゃあるまいし"笑"。無駄なロマンスや起承転結を欠いたシナリオはロシアのお約束だが、欧米視点も加味しないと結果的にロシア映画の理解は深まらない。ハリウッドのエッセンスを注入した位では、ロシアの観念的良さが消える筈がない。怯えずチャレンジを続けて欲しい。

エイリアンは言葉の例えに過ぎない。テーマは素晴らしいのでお時間が許せば観て欲しい。
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