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セイント・モード/狂信のアタフのレビュー・感想・評価

セイント・モード/狂信(2019年製作の映画)
4.2
『セイント・モード/狂信』
タイトルから分かる通り宗教(この映画の場合キリスト教)に妄信する在宅看護婦モードの狂気を描いた映画。モードは末期ガンにより余命幾許もない元ダンサーのアマンダを看取る中で、死にゆくアマンダに対しての神からの何らかの"使命"感じはじめ、彼女の行動は常軌を逸してゆく…

私自身は宗教を信じていない典型的な日本人であるが、宗教または神にすがらなければ生きていけないという人間の気持ちはよく理解できます。
人生は苦しみに満ちていて、病気やトラウマや親しい人との死別などの苦しみに耐えられず宗教に救いを見出すということは人間だれしもに起こりうることだと思う。この映画の主役であるモードも過去のトラウマ(はっきりとは描かれないが過去に医療ミス?で患者を殺してしまった)により、キリスト教にのめり込んでしまう。

彼女を映し出すカメラはとても近く彼女の内面を映し出そうとしている様だ。神を狂信する彼女の目線で物語は進み、彼女は神に愛撫され、啓示を受け、そして神から選ばれたかのように宙に浮く。宙に浮くシーンはタルコフスキーの映画とかポール・シュレイダーの『魂のゆくえ』でも同様のシーンがあったと思うが、どちらの映画も宗教的な要素を含んでおり、宙に浮くというのは宗教的にはとても神秘的であり意味のあることなのでしょう、この辺りは宗教に詳しくないのでよく分かりませんが。

宗教への狂信をテーマとしたホラー映画っていろいろあると思いますが、それらってどちらかというと宗教を狂信している人たちの被害を受ける人々の目線で描かれることが多いと思う。だが、この映画は宗教を狂信する側の人間の目線で描かれ、その目線により宗教への狂信を追体験させる。妙に近いカメラワークもそのためか。

終盤、彼女は神からの啓示により常軌を逸した行動に出ます、この彼女を「頭のイカれた女」と受け取るのは簡単だしまあ実際そうなのだが、彼女にとっては正しいことをしていると確信しているわけであり、それは自分を救ってくれた神の言うことなのだから当然なのである。彼女だって元々は"まとも"な人間だっただろう、彼女の場合過去のトラウマが原因で宗教にのめり込こむが、我々だって何かきっかけがあれば同じように宗教に救いを見出してしまうかもしれない。彼女の行きつく先は正に狂気であるが、自分も同じようにならないとは限らないだろう。

そのように、宗教にのめり込んでしまう普遍性とそれにのめり込む怖さと恐怖を描いた、ちょっと他には類を見ない凄いホラー映画でした。



彼女の目線と他人の目線、2つの目線で映し出される衝撃のラストシーンには言葉が出ませんでしたよ…
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