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鹿の王 ユナと約束の旅のsomaddesignのレビュー・感想・評価

鹿の王 ユナと約束の旅(2020年製作の映画)
4.0
下巻だけ渡されて読んでいる気分。

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10数年前、謎の疫病の蔓延によってツオル帝国の侵略を遮り、今は緩やかな従属関係にあるアカファ王国。ある日、山奥の岩塩鉱が奇妙な山犬たちによって襲撃され、謎の病で人が次々と死んでしまう。それはかつて一度は克服したかに思われた感染症・黒狼熱(ミッツァル)と呼ばれるものだった。
岩塩鉱で身寄りのない少女を救うため、山犬に噛まれたヴァン。辛くも一命を取り込めた二人は、安息の場所を求めて旅に出るのだが……。

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原作未読。「守り人」シリーズで知られる上橋菜穂子原作のアニメ映画化。
「精霊の守り人」が買ったまま、ずっと積読になってるの思い出した。


映像化しやすそうな血湧き肉躍る戦乱・動乱の冒険活劇…のその後を映画にしたので、ものっそい地味。地味だけど滋味に溢れて、ゆっくりと心身の傷を癒して、再び立ち上がる人たちの話で、じんわりじんわり胸の奥から温めてくれる。

説明的なセリフが少なく、絵と声の演技だけで状況や内面が透けて見える作り。
とにかく絵の表現力に全振りしてる上に、描写が繊細。一見するとキャラクター達の思惑や成長・変化が掴みにくくて、見進めるのに慣れが必要だった。

一つ一つの動きに重さがあり、リアルで美しい作画の妙技を堪能。動物の骨格から自然風景イチイチに至るまで描き込みが凄い。入念な研究とアニメ表現の経験値のフルスイングを見せられてる……のは何となく分かるけど、綺麗すぎてバカには味わいきれなかった。そんなにリアルが良ければ実写とCGでいいって気もするし、もっとこう……絵が動く原初的な気持ち良さに欠けてしまったような。

モンゴルやチベット〜ブータンといったアジア圏を下敷きにしたファンタジー。ファンタジーといえばな中世ヨーロッパな騎士と魔法使いの世界とは一線を画した世界観。そのおかげで良くも悪くも増してるジブリ味。

これはもうしょうがないけど、どうしても「もののけ姫」っぽい。監督の二人がジブリ出身なせいもあるだろうし、そもそも原作の上橋菜穂子先生からしてナウシカのファン。世界観にジブリの影響があるのは否めない。

美しい情景の向こうに醜悪な思惑が見え隠れする多層的な作りで、心に残る素晴らしいアニメだと思うけど、もうひとカロリーあって欲しかった。自分がここ最近コッテリめなアニメに慣れすぎてるせいもあるだろうけど(ストーリー・描写・作画それぞれ)

12本目
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