ジェイコブ

ハニーランド 永遠の谷のジェイコブのレビュー・感想・評価

ハニーランド 永遠の谷(2019年製作の映画)
3.8
北マケドニアの人里離れた谷。養蜂で生計を立てているある女性に密着したドキュメンタリー。寝たきりの母と二人暮らしで、母の介護と仕事に明け暮れていたら、いつの間にか年をとり、気がつけば別の人生について思いを馳せる事が多くなっていた。ある日、家の隣にトルコ人の家族が引っ越してくる。トルコ人家族の主は、牧場を経営するも生活が苦しく、子供の学費も払えないほどであった。トルコ人は少しでも稼げる仕事を探せるようにと、女性の助けを得ながら、養蜂の仕事を始めるが……。
北マケドニアで作られ、2020年度アカデミー賞のドキュメンタリー部門を受賞した作品。3年の月日と400時間以上かけて密着し、電気も水道もない谷で、ヨーロッパ最後と言われる自然養蜂を行う女性に密着している。
本作は消えゆく自然養蜂という職業を通して、「共存」の難しさを説いている。そしてそれは自然だけでなく、人間との「共存」も指している。女性が言う「半分は自然に残す」には、人間は自然の恵みを貰い受けながら生きているに過ぎず、自然養蜂家にとっては戒めのような言葉だろう。人間がその事を忘れて欲を出し、自然を支配しようとすればたちまち自然の怒りを買う。それはトルコ人の男が金を稼ごうと躍起になるあまり、女性の忠告を無視して蜂蜜を根こそぎ取り、近隣の蜂を全滅させてしまった事が最たる例だろう。男の欲のせいで仕事を失い、さらに最愛の母が死去してしまうというこれ以上ないほどの不幸に見舞われるのだが、それでも希望を失わない女性の姿には非常に勇気を貰える。最後まで静かで息の詰まりそうな作品だが、時代とともに消えゆく職業の現実と、この世界のどこにでもある移民との共存の問題を描いた良質なドキュメンタリー。