セサミオイル

プロミシング・ヤング・ウーマンのセサミオイルのレビュー・感想・評価

4.5
非常に重いテーマを痛快復讐劇としてエンタメ化しつつでもやっぱりただのエンタメでは終わらせないという多重構造な1本。
万国共通の根深い社会問題を多かれ少なかれ誰もが持つ傍観者としての罪悪感、または過去の過ちに対する一生モノの後悔の念を直撃する事で観客に強く訴える事に成功してると思う。
私は性暴力の現場にいたことがないから感情移入出来なかったというレビューがあったが想像力が貧困過ぎておめでたい愚者だと心底思う。
現場にいたことがなくても性暴力のニュースを見聞きしてなんのアクションも起こさなかったら傍観者と同罪だ。自分が生きてるのと同じ世界に性暴力の被害者も加害者もいないとでも思ってるのかな?「私は関係ない」といった顔した人間が多いほど被害者は追い込まれて声を出しにくくなってしまう。それは加害者に加担する行為に等しい。
劇中では「もういいでしょ!?私関係ないし!」という人も制裁の対象となっていた。
そういう映画でしょこれは。
傍観者が加害者より悪いという事ではなく、あの時の傍観者が少しでも被害者に味方していればという話でもある。
傍観者のままなら犯罪が遂行されてマイナス2点。傍観者がその場で被害者の味方をすればマイナス2点は無くなり被害者の気持ちが和らいてプラス2点、計4点の働きになるんだよ桜木花道。的な事があるかも知れないから傍観者や自分の事を関係ない人って思ってる人は、その働き次第で未来を切り拓く結構大事なポジションだという事。

今作は主人公が何も出来ないまま大切な友人を亡くしてしまう。主人公の行為は単なる復讐ではなく結果的に傍観者になってしまった自分への戒めでもあるのではないだろうか。
傍観者はその罪に気付いたとしても誰も罰してくれない。だから主人公は延々と危険な行為に身を投じ続けたのではないか。
だからあの弁護士の贖罪に共感したのではないかと思う。

国内でも早稲田・慶応で女子学生に対する性的暴行のニュースが定期的に出てくるが、有名大学だからニュースになった訳で、明るみになってない事件は多いだろう。個人同士のデートレイプまで数えたらもっと。
高校球児たちが女性記者に度重なるセクハラをしたというニュースを最近知った。選手も監督も個別に彼女を呼び出してセクハラを行なっている。
現場には加害者と傍観者しかいなかった。傍観者の中に1人でも異を唱える者がいたら話は変わってきただろうがそうはならなかった。

勇気を出して記事にした当の女性記者に対して同僚のリアクションは黙殺レベルに薄いという。
高校球児=爽やかという図式が崩れると商売がやりづらくなるからだろう。えらそうに報道とか言ってふんぞり返っててもその程度の覚悟である。

被害者に隙があったから被害に遭ったんだ。とかにやけたツラしていつまで言うつもりか。
隙があったかどうかが問題ではなくて、隙がある人には何をしても許されるんですか?という問題である。
大人だったら行動に責任とりなさいよという話である。
今作でもBARで泥酔してる女性なら持ち帰ってなし崩しに性交渉しても許されるのかという問いかけがあった。答えはもちろんNO!である。
そういうのもダメだよという話。


若者の暴走を遠くから見守るのも大人の役割だが、越えてはいけない一線があるというのを知らしめていかないと世の中変わらないと思う。



本作のテーマは衝撃的な話が故に同様の被害に遭われた方はいたたまれぬ気持ちになるだろうが、フラッシュバック的な辛さは事件現場の映像を見せないなど最小限にとどめる配慮がなされてると感じた。
無意味な露出は避けられていて、好奇な目にエサは与えないという意思もあった。
その上でショッキングな映像はあり、そこは見せるんだと思うとより強く、そのシーンの意味合いが増す。

テーマ抜きで復讐エンタメとしてはストーリー運びがとても良くできていた。チャプターからチャプターへの繋ぎがスムーズ。
音楽も凄くいい。映像でも音でも思い切りポップ
にする事で、ヘビーなシーンはよりヘビーに届くように出来ていた。
ジェットコースターのようにあちこちにカーブを切り、上下に揺らし、緩急を付けては客を没入させて作り手の思いを最大限に伝えていたと思う。
ここまでエンタメとしての作り込みがないと敬遠されがちなテーマだからそうしたのかも知れません。

鑑賞後面白かったー!となるかテーマについて深く考え込むかは見た人次第。