るるびっち

プロミシング・ヤング・ウーマンのるるびっちのレビュー・感想・評価

4.2
暴力に頼らない復讐が、男の復讐とは違う。
実は暴力的な描写が無い。
車を壊す所で無茶苦茶な女性という印象を与えるが、それはミスリードで他に暴力シーンはない。
男をひっかけて制裁する所も、どんな制裁をしたかはわからない。

二人の女性を懲らしめる時も、彼女たちに恐ろしいことが降りかかったのではないかと想像させるだけ。
誘導しているだけで、実際に暴力的なことはしていない。

男性が復讐する物語では、前半敵の攻撃に耐えていた男が、最後復讐と怒りをストレートにぶつけて、敵を暴力で殲滅するケースが多い。
『ランボーラスト・ブラッド』などは、しょぼい街のチンピラ(一応麻薬カルテル)に一旦やられるのは、ラストに大虐殺するための段取りにしか見えなかった。
そういったこれまでの、男の復讐劇とは一線を画している。

腕力では敵わないので、頭脳戦で相手を怯ませている。
しかしそれが有効なのは女性達だけである。
女性二人は、恐ろしい仕返しを想起させただけで屈服した。
だが、バカな男たちは暴力で反抗して来る。
頭脳が筋肉なのか、頭脳戦が通用しないのだ。
なので、合気道のように相手の攻撃を利用しての勝ち方になった。
観客には、どこまでも男の暴力が胸糞だとの印象が残る。

ストレートな男の復讐映画と違い、直線的ではない。
自殺した友達の復讐というプロットと、過去を忘れて新しい恋に生きるプロットと平行して進み、主人公がどちらを選ぶかを観客は見守る。
有望な未来を捨てた主人公は、過去の執着を忘れる方が幸せだ。
だが、それは周囲がいつも彼女に押し付ける生き方だ。
女性は生き方を拘束されがちだし、一部の男性の様に庇護もされていない。
本作は男性への復讐に終らず、そうした社会の慣習や価値感、ルールへの一撃だ。

BC AD(キリスト以前以後)のように、本作以前以後があるだろう。
男性的な感性で描かれてきた映画。
今後は女性制作者が増え、復讐映画一つにしても違う感覚で描かれるだろう。乱暴なだけの映画はラスト・ブラッドなのだ。
るるびっち

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