もりぞー

プロミシング・ヤング・ウーマンのもりぞーのレビュー・感想・評価

4.0
既に映画が無料でたくさん観れる状況に置かれると、なかなか映画を観たいなぁという気持ちが湧かなくなる気がします。それでも面白いものは観たいという気持ちを拡張して、なんとかして面白い!観てよかったと思える映画に辿り着きたい、と日々悶々としています。
で、Filmarksでアマプラで面白い映画を探ってみました。これがいいかも、と思って、でも結局そうでもないかもしれないな、と期待せずにみた映画、それがこちらです。
「プロミシング ヤングウーマン」。
タイトルからして、内容が汲み取れませんし、なんなら、道徳的で、いい話を押し付けられるのではないかという危惧さえ覚えます。他の方のレビューを見る限り、とても面白そうに思えるので、危惧を振り切り鑑賞。
結果、面白かった。

まず、監督のことは知りませんが、キャリー・マリガン、年齢を重ねたとはいえ、とても可愛い。「ドライブ」の時の危うさ、「わたしを離さないで」の時の儚さとまた違った、言わば逆張りのキャスティング。ただ、この可愛さがあるが故、このキャラクターが活きていて、そこがキャスティングの妙と言えます。
この映画の最大の魅力は「違和感」です。
監督はおそらく意図的にこの「違和感」を作り上げているように思えます。
ストーリーの陰鬱さに比べ、映画の中で生きる人たちのたちの生活はパステルカラーに彩られています。
主人公の両親の、あのステレオタイプ感。お金持ちで、娘の自立を周囲の眼があるからと促し、娘が自分の誕生日を忘れていいることに嘆き、母親が文句を言うと、父親が優しく助け舟を出す。常に両親横並びと娘という食卓の位置関係で家族関係が伺えます。後に母親が、娘はある時期からおかしくなったと語っているので、それ以前はそういう関係ではなかったことが伺えます。
主人公と友達の関係も映画の中で深く語られることはありません。
主人公はとても裕福な家庭の育ちのようですが、亡くなった友達はそれほど裕福には思えません。それでも幼馴染みのようですし、家族ぐるみの関係だったことも匂わされていますが、はっきりしません。
最大の「違和感」は、主人公の部屋です。主人公の行動とは裏腹に、とてもガーリーな部屋で暮らしています。ターゲットとなった同級生が家に訪ねてきた時、彼女の部屋に入った瞬間戸惑ういうシーンがあるほどに、意図的に「違和感」を挿入しているように思えます。主人公が「おかしく」なる前は、こういうタイプの女性だったのかも知れません。
など、ちょいちょい「違和感」ポイントが意図的に作ってあり、それがこの映画の魅力に昇華されています。とても良いです。
あと、ちょっとやだなーと思ったのは、この映画を観て、「過去の過ちは総括しないと一生付きまとう」という問題を突きつけられたことです。
特に主人公の彼氏を登場させることで、「過去の過ちを過ちとも感じない人」と「過去の過ちを過ちと感じているが、忘れている人」は同罪であるとしています。わざわざ「過去の過ちで良心の呵責に押しつぶされる人」を登場させている点を見ても、主張の線引きがしっかりとされています。
それで瞬間的に思い出したのが、東京オリンピックで音楽の担当に抜擢された小山田圭吾のことでした。

鑑賞している時は上記のことなど考えることなく、素直に映画を楽しました。「楽しめた」というとちょっと人格を疑われそうですが、とても面白かったです。楽しめて、考えさせられる映画。

「プロミシング ヤングウーマン」、タイトルにもちょっと「違和感」がありますね。まぁ、それでいいのかも知れないけど、これかなぁ。っていうところで敢えてのタイトルのように思えます。ステキ。
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