Miller

プロミシング・ヤング・ウーマンのMillerのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

⚠このレビューにはネタバレとyoutubeにあるエメラルド・フェネル監督のインタビューの引用を含みます。⚠



キャシーは、親友を悲しい出来事で失った過去を持つ。
キャシーが医学生だったころ、幼なじみで同級生のニーナは泥酔し、意識が朦朧としていることにつけこまれ、周りに他の学生がいるなかでレイプされた。
酔いが醒め、その事を知ったニーナは、大学に通うことができなくなり、そんなニーナを支えるためにキャシーも大学を中退する。
ニーナは大学などにその事を訴えたが、ニーナの主張が通ることはなく、絶望したニーナは自死を選ぶ。
それから10年近くの時間が流れたが、ニーナの死を受け入れられないキャシーは、クラブで泥酔した振りを演じ、そんな女性に暴行をしようとする男たちに復讐をする日々を送っていた。
そんな中、キャシーは大学時代の同級生ライアンと再会し、直接の加害者の近況を知り、彼らへの復讐を企てていく。


キャシーは、ニーナの死を深く悲しみ続け、ニーナの死とともに時間が止まってしまった。
一方ニーナへの加害者たちは、ニーナの死のあとも大学に残り、現在は医師として充実した生活を送っている。
キャシーはニーナの死を悲しみ続け、ニーナの死を弔うために復讐を行う。
性的暴行の加害者になりうる男たちには、酔っぱらった振りをし、男が暴行に及ぼうとした際に、素面の状態であることを明かし、加害者になりうる人物たちを驚かす。
その場における強者と弱者の立場が入れ替わることで、男たちは混乱し、キャシーに恐怖する。

ライアンとの出会いがきっかけになり、ニーナの死に関わった人物達への復讐が始まる。
ニーナがレイプされたという訴えを信じなかった、かつての同級生のマディソンに対しては、酒に酔って見知らぬ男と性行為に及んだと思わせる。
大学生である加害者に対して処罰をしなかった学校長に対しては、娘を誘拐したと思わせ、ニーナと同じ目に遭うのではないかと思わせる。

ニーナと自分が同じ目にあったら、ニーナと自分の娘が同じ目にあったら?
自分や愛する人が、ニーナと同じ目にあった時の不安や恐怖を何故ニーナの時には思いやれなかったの?
キャシーは彼女らに、直接の暴力ではない方法で、想像を掻き立てさせることで、不安や恐怖を実感させる。


キャシーは、アルのような加害者たちを弁護し続けてきた弁護士のグリーンに対しても復讐をしようとするが、実際に会ったグリーンは、ニーナの事を覚えており、自分のしてきた仕事に対して罪の意識を覚え、眠ることが出来ず精神の病と診断を受けていた。
「過去の行いのせいで自分を許せない」と言うグリーンに対してキャシーは、「あなたを許す」と告げる。

加害者達は変化していないのだろうか?

キャシーはグリーンとのやりとりの中で、ニーナのための復讐の決心が揺らぎ、自分のしてきたことを確かめるようにニーナの母親に会いに行くが、ニーナの母親からは「あなたがその場にいなかったことを悔やむのを止めなさい。皆のために前に進みなさい」と言われる。


本作の監督エメラルド・フェネルは、本作についてのインタビューで
「男性が主人公の西部劇や復讐劇では、一般的に罪の償いという明確な目的が描かれる。
でも主人公が女性になると感じ方が変わってくる。
キャシーや世の女性は過去に執着するなと言われる。
家でも職場でも恋人からも同じように責められ関係に摩擦が生まれる。
"過去を忘れる気はない"と、女性が宣言したらどうなるか興味があった。
そういう女性がいると周りは居心地が悪くなる。」
と語っている。

キャシーは、自分の行動は誰からも理解されることはなく、自分の中にもその行動の正しさに対して迷いが生まれた。
復讐をすることをやめたキャシーは、ライアンと新たな日々を過ごすことを選択する。
キャシーとライアンの日々は順調に過ぎていくが、キャシーが復讐をしたマディソンによって、キャシーはニーナの性的暴行の場においてライアンが傍観者として楽しんでいたことを知ってしまう。
キャシーは、自分自身が相手に問い続けてきた過去によって選択を迫られる。
そしてその選択は、奇しくもキャシーが贖罪を続けてきた自身の不在という同じ状況の中、裁かれるべき人物たちの本性を暴き出す。


本作の監督エメラルド・フェネルは、本作についてのインタビューで
「登場人物が過去に犯してきた過ちは、いつの時代も繰り返されてきたこと。
この映画の狙いは問いかけることだけ。
物語の根底にある疑問は、"誰もが許容してきたのに、なぜバツが悪いのか"ということ。
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苦い経験を甘い砂糖で覆い隠した過去は誰でもある。
この映画でいう苦い経験というのはヒ素のような劇薬ね。」
と語る。

キャシーの復讐は直接の加害者だけでなく、当事者とその周囲の人々の人生を変えるような出来事を、その他無数にあるうちの一つの出来事として受け入れてきた人々に問いかけ、楔を打ち込む。
あなたのしてきたこと、これからしようとしていることは正しいこと?

ことの発端はキャシーの不在で、物語もまたキャシーの不在で終わる。
キャシーのように闘い続けられる存在は、現実世界では稀有な存在だろう。
ただし現実世界の観客は、現実世界に不在の存在によって、色彩豊かでポップ、エンターテイメント性でコーティングされた本作という劇薬を飲まされ、問われ続けることになる。
あなたのしてきたこと、これからしようとしていることは正しいこと?;)
Miller

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