ーcoyolyー

プロミシング・ヤング・ウーマンのーcoyolyーのレビュー・感想・評価

4.0
『ゴーン・ガール』の主人公、サイコパスだサイコパスだと世間では言われてるけど彼女はこの映画の主人公たちと似たような境遇で、サイコパスではなくて単なるサバイバーだと思うんですよね。(ロザムンド・パイクとキャリー・マリガン、何気に『プライドと偏見』で姉妹役だったな、などと思い出す)

でもこの人被害の当事者ではないのに何でここまでやるんだろう?と思ってたら中盤でなるほどサバイバーズ・ギルトか、と判明するように脚本作ってて上手いなと。私が彼女に言いたいこと感じたことは被害者遺族から語られたそのままなので特に付け足すことはありませんし、その言葉を受けて揺らいだところに次の燃料投下の流れがスムーズでしたよね。あの言葉を受けてお花畑がそうだよそっちに行きなよ、と私たち当事者とは違った無責任な高みからまるで深みがない自分が傷つきたくないがためだけに私たちを突き飛ばしてグロテスクな感情を暴力的に投げつける行為をそうやって封じたのはストレスフリーでしたね。
彼女は被害者遺族や私の想いをしっかり受け止めて咀嚼した上であの選択をしているので、こちらとしてはもうその選択を尊重することしかできません。

こういう状況に巻き込まれた人ならわかることで当事者として巻き込まれたことのない人にはちっとも伝わらないことは、その被害そのものよりセカンドレイプの方がよっぽど傷つけられるし苦しめられるということで、その被害だけなら私たちはここまで追い詰められないし苦しまないんですよ。その被害を受けて周囲や社会の側が被害者側に立つ制度設計になっていれば私たちは被害そのものだけの傷で済む。でも違うからね。被害者の周囲や社会は徹底して加害者擁護をするように制度設計されてますからね。こういう事件の加害者というのはもうどうやったって出るよ、撲滅できない。でもその加害者を徹底的に糾弾して、というより社会が断固としてこういう被害が生まれることを許さずに、被害者だけでは無く加害者側の治療やカウンセリングも手厚くなればまだここまで深く傷つくことはなくなるんです。被害者は容易に加害者になってしまうのもまた事実なので現状では被害者も加害者も包括的にひっくるめたケアが必要なんだと思います。ジャニーズ事務所所属タレントの問題行動ってトラウマの再演的なものなのでは?と指摘されてるのを見て、その根深さに頭を抱えたんですけど、この泥沼に一度落ちてしまうと抜け出すのは非常に困難ですし、落ちたことのない人はこの沼がどういう性質のものなのかちっとも理解できないものでもあるので、そこの歩み寄りや擦り合わせは社会頑張れと思う。私はもう擦り切れ過ぎて叫ぶ声など残ってないから他者に任せることしかできない。私はもう頑張り過ぎて何もできない。だから私に頑張ることを強要し続けた社会の側が今度は頑張れ。

今私、早稲田のセクハラの話を追っていて、そのセクハラ被害者に対する伊藤比呂美や津田大介や佐々木敦が二次加害している姿がこの映画とそのままそっくりで思わず笑ってしまったよね。ああベタだな、こいつらもあいつらも救いようがないクズでベタだなって。こんなありふれたベタな保身に私たちは何度も何度も殺される。

キャシーはさ、山上徹也なのよ。もう自分の声の届かなさにあれくらい絶望して後始末も段取りつけて覚悟して臨んでいる。山上徹也は何故か生き残ってしまったけど、彼はもうキャシーのようになることを想定して動いていたわけよね。だからあの弁護士は彼の伯父みたいなもんで、罪悪感から甲斐甲斐しく動くんだと思うし、社会はあの死によって旧統一教会問題に気付いたように今まで敢然と無視してきた私たちへのレイプやセカンドレイプ問題にも気付いて騒いでくれる。

今私たちの生きている現実がそのようなものであるので、不思議と風穴が空いて希望が持てるラストのように私には感じられました。

完全にハーレイ・クインなあの辺に関してはニーナ役にマーゴット・ロビーをキャスティングすると綺麗な一本の線を引けるのでそういうことなんだと思います。いつもマーゴット・ロビーの横にいて彼女に憧れていたキャリー・マリガンがマーゴット・ロビーのコスプレをしてあの場面に挑む、という脳内補完すると全てが収まるところに収まる感ある。この映画、マーゴット・ロビーがプロデューサーに名を連ねているんだしそれはそういうことなんだろう。

幻影のヒロインとしてのマーゴット・ロビーの残像。この映画で語られたニーナの人生をマーゴット・ロビーの姿で想像する。そういうことなんだろう。

・・・・・

皆、レイプサバイバーとしての私にこの映画観て欲しくて何を感じたか知りたかったんでしょ?君たちの欲望を満たせるようにほらちゃんと観て書いてやったぞ。現場からは以上です;)


あ、そうだ。あのあそこでかかる『トリスタンとイゾルデ』、音源はハイティンク&ロイヤルコンセルトヘボウでした。良い使い方でしたよね。こういう情報は後々思わぬ時に助かるから(私にも約束されたはずの輝かしい未来があったのだろうか?とずっと考えていた)今の私がちゃんと記録しておくぞ。未来の私が感謝するに違いない。
ーcoyolyー

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