SANKOU

プロミシング・ヤング・ウーマンのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

抵抗できないとみて泥酔した女性を連れ込み、無理矢理犯そうとする卑劣な男たち。決まって彼らは親切を装って女性に近づく。
しかし、何故そういう男は女性が無抵抗に自分の欲望を受け入れると信じて疑わないのだろう。自分の方が力があると過信する愚かな男たち。
そんな男たちに鉄槌が下される。キャシーは泥酔を装って男を誘い込むが、彼女に同意を得ずに男が無理矢理犯そうとしてきた時に、彼女の中でスイッチが入る。
彼女がシラフだと分かった途端に男たちは狼狽える。それまでは彼女を支配しているという圧倒的な優越感に浸っていたのに、そうでないと分かった途端に急に弁解を始める男たちの姿があまりにも滑稽だ。
しかし、何故キャシーはこんなことを繰り返しているのだろうか。
やがて彼女の過去にある大きな傷が明らかになっていくのだが、とにかく二転三転する展開に感情を揺さぶられる作品で、脚本の巧妙さに感心させられた。
キャシーは医学部を中退していたが、その理由は親友のニーナが同じ医学部の学生にレイプされたからだ。
ニーナの告発を大学側はまともに取り合わず、弁護士も訴えを取り下げるようにニーナを脅迫した。心に深い傷を負ったニーナは大学を中退し、そして今はもうこの世にもいないことも分かる。
キャシーもニーナの死によって心に大きな傷を負った。卑劣な男たちを許せないキャシーは、夜になると男たちに罠をしかけ天罰を下す。
やがて彼女の耳にレイプの実行犯だったアルが結婚するという報せが入る。
被害者のニーナが辿った運命とは正反対にアルは成功の道を歩み続けていた。
キャシーはレイプに関わった者たちに復讐を企てる。
キャシーに対して男たちは「このイカれ女!」と罵るが、果たして狂っているのはどちらなのか。
キャシーの行動は確かに過激だが、彼女の振りかざす正義はきちんと筋が通っている。
キャシーは過去の過ちを心から悔いているものには罰を与えない。
しかし大半の人間は若気の至りだったと開き直り、もう過去をほじくり回すのは止めて欲しいと自分の名誉のことだけを考えて弁解をしようとする。
キャシーは一旦は復讐をすべて止めて、同じ医学部の学生だったライアンと平穏に暮らすことを選択する。キャシーはライアンも最初は他の男たちと同じように下心しかないように思っていたが、彼の誠実な心に触れて次第に心を開くようになる。
キャシーがライアンと対面した時だけに見せる飾らない笑顔が印象的だった。
しかし平穏な日々は続かない。キャシーが罰を下したマディソンという医学部時代の同級生が、アルがニーナをレイプしている場面が録画された映像をキャシーに見せる。
そこにはライアンの姿もあった。信じていたものが崩れ落ちたキャシーは、再び復讐を開始する。
傍観者であったライアンも、結局は若気の至りだったと過去を反省する態度を示さない。キャシーの恋は終わった。
彼女は動画をばらまくとライアンに脅しをかけ、アルが結婚前夜のパーティーを開く場所を聞き出す。
アルも同じくレイプに加わっていたジョーもまるでキャシーのことは覚えておらず、当然過去の過ちを悔いている素振りも見せない。
それどころかニーナがいなくなったことで、自分たちの罪が表沙汰になるリスクがなくなり安堵してさえいた。
この映画に登場する者たちはほとんど謝罪の言葉を口にしない。これはアメリカの国民性もあるのかなと思った。
もし自分が無自覚のうちに人を傷つけていたとして、それを認めて謝罪してしまったら、どんなトラブルに巻き込まれるか分からないからだろう。
皆がキャシーのように心から悔いていれば許しを与えるというわけではないのだ。
アルに罰を与えようとしたキャシーは逆にアルの反撃を食らってしまう。
ここからの展開は衝撃的すぎて、もはやコメディであると思った。とてつもなく悪夢のようなコメディだが。
いつか露見する罪もあるが、世の中には罪を隠し通してのうのうと生きている者もいる。
復讐を企てた者も、どれだけ正当性があろうとそれは罪である。
全く救いのない話だと思っていたら、最後にどんでん返しがあるのにも吃驚した。
狂っているのは誰なのか色々考えさせられたが、一番狂っているのはこの映画の脚本だと思った。絶賛の意味をこめて。
SANKOU

SANKOU