ネノメタル

選ばなかったみちのネノメタルのレビュー・感想・評価

選ばなかったみち(2020年製作の映画)
3.9
それにしても『ジンジャーの朝』(2012)以来のエル・ファニング主演×サリー・ポッター監督って組み合わせがもう既に最高すぎる。
認知症の男が、娘に付き添われ、何から何まで歯医者の付き添いからトイレの世話まで介護されながらも、失われた記憶を取り戻すかのように彼の頭の中では2つの過去がフラッシュバックする、という合計して同時に3つの物語が同時進行するという濃密な構成の作品である。だけどそれほど複雑さ・難解さみたいなものはあまり感じさせずそれぞれの物語に入り込む事ができたのはストーリー構成の巧みさってのもあるんだろうけど、主演のハビエル・バルデムの演技力の成せる技ってのも大きすぎると思う。いやほんとにほんとにあの人は凄かった。認知症モードの時、目が本当に死んでるんだよな。【死んだ魚の目】とはよくいうけど、イマイチピンとこなくてやっとどういう感じの眼なのかあの人を通じてよく分かった。
そして話は戻るが、これら3つに分かれた全ての物語は「あるべき場所(right place)
」に収束するのか?というのが焦点になる。
唐突だが、特に関連性は全くないんだろうけど、正にRadioheadの名曲『Everything in its right place』の歌詞をさながら具現化した世界だとも言える。

そしてビジュアル・ポスターのイメージからお分かりのようにもちろん派手な展開とかないのは明白なんだけど地味ながらハッとさせるあの結末。別にエル・ファニングが出演してた訳じゃないけど「幸せへのキセキ」にも似た奇跡でも軌跡でもないカタカナの「キセキ」がそこにある。観終わって24時間以上経過してるがその「キセキ」に対する余韻がボディブロウのようにじわじわじわじわ効いてくる。
過去私が観た作品歴視点で言うと『わたしの叔父さん』にも似た穏やかなトーンで終始物語が展開され、終盤のある展開は、ふと邦画だけれど『テロルンとルンルン』も彷彿とした。
そして、本作の大きなキッカケはポッター監督の弟が認知症を患っていて、意思疎通こそままならないのだけれど何か他の人生と交信しているような印象をいつも受けているからその弟へ捧ぐというのがキッカケだそう。「(今まで)選ばなかったみち」を生きているような....
だからこそサリー・ポッター監督でエル・ファニング主演『ジンジャーの朝』と地続き感ある「家族とは何か?」というシンプルだけど深淵な命題がその根底に感じられるのだ。
しかし「ジンジャーの朝」といい、今回の作品といい、ポッター作品の中で親父に翻弄される役させたらエル・ファニングは世界一ではないだろうか(笑)
ふと、『ジンジャーの朝』観直したくなってきた。
あれ予告編までもが最高なんだよね。
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