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選ばなかったみちのslowのネタバレレビュー・内容・結末

選ばなかったみち(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

認知症の方が唐突とも思えるような感情を露わにし、または行動を取る時、頭の中でこの作品で描かれていたように過去の記憶を呼び覚まし、進行している時間と混同してしまっているのだとしたら。この病気のことを漠然と認識はしていたものの、このように記憶を彷徨っていると想像したことはなかったかもしれない。似たような作品で『ファーザー』という同じく認知症を扱った作品があるとのこと。観ていませんが、そちらの方が圧倒的に評判は良いみたい。

敢えて行く先々の人に頭おかしいと言わせていたのは、まだまだ世間が認知症のことを理解してくれていない現状があるという訴えだったのだろうか。監督の家族に認知症の方がいらっしゃったそうで、そのあたりは実体験から来たものだったのだろう。理解は難しくても、せめて優しさを持って見守って欲しいという願いが、あのタクシードライバーの場面に表れていたのかもしれない。全編に散りばめられたレオの選ばなかったみち。レオが愛した人は、彼の記憶の中ではとても優しく献身的で、あるいは理解ある人といったように美化されていたように見えた。これは認知症だからと言うよりは、男性だからという気もする。船上で亡くなっていた?のは記憶が消えてしまったことを意味していたのかな。最後のあの展開にはちょっと驚いた。もしかしたら、モリーと過ごしたこの粗だらけの一日は、レオのあったかもしれないみちと、モリーの選ばなかったみちの折り重なったものだったのかもしれない。だから、こういう多忙極める日が、もしも…として選ばれたのだろう。そう考えると、ラストのモリーの方が現実のモリーだったのではと思えてしまう。切ないけれど、あれはある意味どんでん返し。しかし、ハビエルがインタビューでこれは父と娘のラブストーリーだと言っていたので、ラストに現れたモリーが選ばなかった方なのでしょう。もちろん認知症の方が実際にどのようなことを考えているかはわからない。でも、介護する側の観察と想像を交えて作られた本作は、わたしに今までとは少し違う認知症への視点を与えてくれるものであり、大変興味深く鑑賞することができた。
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