空海花

17歳の瞳に映る世界の空海花のレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
4.2
『ブルックリンの片隅で』のエリザ・ヒットマンの長編3作目。
ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。

17歳で妊娠してしまった少女が、従兄弟でもある親友と共に、親の同意なしに中絶が可能なニューヨークへと向かう。

彼女たちを取り巻く世界は、いささか鬱屈していて、
淡々と描かれつつも、鼓動を感じるようで、静けさの中に衝撃がある。
彼女たちが住むペンシルバニアの町の情景は
映画でも時折描かれるラストベルトの問題が漂う。
そこで彼女たちに送られる視線
彼女たちの目線でそれを見せられて
終始心が重くなる。

ニューヨークは、人工妊娠中絶のための制度が進んでいることに少し驚いた。
それはその前に描かれるペンシルバニアの産科医院(かな?)の場面があるから。
あのビデオに恐ろしさを感じる。
十代の頃に観たくない…
中絶については賛否があるのは承知だが、だからこそ一方的に見せられるのはきつい。

彼女たちは少女だから、
助けが要る。
ボランティアを頼ってほしかった。
あの父親の言動。母との関係。
彼女の心は頑なになり、自分たちだけで抱えられるだけ負おうとしていた。
ボウリング場で映すカメラの目線。
進んでいるとは言っても
ニューヨークに行って、その視線から逃れられる訳ではない。
うんざりしつつも、ある程度は仕方ないとでもいうような諦めとの中間。
自分の心が少女に戻ってしまいそうな
引き裂かれそうな痛みを思い出してしまいそうな気になる。
そんな世の中でも彼女たちは、後ろばかりを向いてはいない。見えない出口を懸命に探そうとしている。
未来の天井は完全に塞がれてはいない。
希望を摘み取ろうとする者が
今後幾度現れても、どうか忘れないでほしい。

原題「NEVER RARELY SOMETIMES ALWAYS」
その意味がわかった時、
その時だけ彼女の感情が決壊する。

一方でこの作品は、医療的な中絶の意味も扱う。
刺激的過ぎもせず、かといって決して生易しくもない。あくまでも現実的に。

目的を終えて、帰らなければならない時
再び静かなクライマックスのシークエンス。
この一連の流れが物凄くリアルで…
何て繊細な切り取り方をするのだろう。
とても女性の視点だが
このヒヤッとする感じ、とでもいうのか。
タリア・ライダーの表情も良く。
大人はサラッとたしなめるだけではいけない、と思った。

オープニングと劇中で歌われる
シドニー・フラニガンの歌は
抗おうともがいているようで心が打たれる。
エンディング曲にも鳥肌が立った。
素晴らしい傑作。


2021レビュー#137
2021鑑賞No.295/劇場鑑賞#42
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