SANKOU

17歳の瞳に映る世界のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

邦題の『17歳の瞳に映る世界』はとても的確な表現だと思った。17歳のオータムの目から見る世界はとても冷たく希薄だ。彼女にとっては誰もが神経を逆撫でするような言葉を吐くようで、誰も自分の本当の気持ちを分かってくれない。
そして彼女の周りにいる男たちは誰もが軽薄で女性を性の対象としか見ていない。
彼女と従妹のスカイラーがアルバイトするスーパーの店長がセクハラを通り越して、もはや犯罪レベルの猥褻行為をするのが同じ男として情けなかった。
鬱屈したものを抱えて生きているオータムは、ある日産婦人科の検査で妊娠を告げられてしまう。
中絶を考える彼女に女医が見せたビデオの内容があまりに酷だった。
中絶がいかに残酷かを伝えるビデオなのだが、それを語っているのが中年の男性だというのが全く説得力がない。
女医は完全に好意からオータムに母親になることの素晴らしさを説くが、オータムに必要なのはそんな綺麗事ではなかった。
彼女の住むペンシルベニア州では親の同意なしに中絶は出来ない。
オータムはスカイラーにだけ全てを打ち明け、二人は親の同意なしでも中絶の出来るニューヨークの病院へと向かう。
バスの中で明らかに彼女らの体目当てに声をかけてくるバンドマンの男に嫌悪感を抱いた。
何故こういう男は女性が自分の意のままになると信じて疑わないのだろう。
後半彼が只のろくでなしではないことが分かるが、それでも二人を助けたのは見返りを求めてのことだった。
もちろん中には親身にオータムの力になってくれる者もいるが、オータムの目からはそんな人たちの姿も白々しく感じる。
中絶のシーンの生々しさは観ているこちらも心が痛くなった。
そして原題になっているNever、Rarely、Sometimes、Always、これはカウンセラーがオータムに妊娠に関して色々と質問をする時の答えとして用意された単語だ。
オータムの妊娠の相手が誰なのか明らかにはされないが、このカウンセリングでどうやら彼女はセックスを相手の男に強要されたのだということが分かる。
カウンセラーは何とかオータムの心に寄り添おうとするが、彼女は言葉に出来ないほどに深く傷ついていた。
だから彼女は母親になるのを拒み、自力で堕胎するために自分のお腹を殴り付けるような酷いことまでしてしまった。
これは男にこそ観て欲しい映画だと思った。
自分の身勝手な性欲を満たすことで、どれだけ女性が身体だけでなく心にも傷を負うか、男はしっかりと向き合うべきだと思った。
ただ全てオータムとスカイラーに肩入れ出来るわけでもなかった。
二人がバンドマンの男の誘いを断りきれないことからも分かるように、彼女らに男につけ入れられる隙があることも確かだ。
そして彼女がひとつの命を消してしまったのだという残酷な事実も受け入れなければいけない。
最後までオータムの目から曇りがなくなることはなかったが、彼女はそれでも前を向いて歩かなければいけない。
少しだけ希望を感じさせるような余韻を残して映画は終わる。
とても繊細な人物描写と、膜のかかったような映像の色彩が印象的な映画だった。
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