ちろる

雨あがるのちろるのレビュー・感想・評価

雨あがる(1999年製作の映画)
3.9
故黒澤明監督が山本周五郎の短編をもとに書いた遺稿を、黒澤組のスタッフたちが映画化した作品。

剣豪なるも、出世からは縁遠い心優しき武士と、そんな夫を理解し支える妻の心暖まる絆を描いた時代劇。
寺尾聰さん演じる伊兵衛はイメージぴったりで、安心感があるが、それ以上に素晴らしい存在感を発揮したのは妻のたよを演じた宮崎美子さん。
なかなか仕官出来ず、うだつの上がらない伊兵衛に対して一言も文句も言わず、それどころか常に笑顔を絶やさずニコニコしている姿はまさしく『理想の妻』

今の時代何も言わずニコニコしているこれを良妻!と大きく褒めれば、それこそフェミニストたちが攻撃してきそうだが、たよのそれは、ただ主人に言いなりではなく主人の心の優しさを誰よりも愛おしく思い、彼がやることには間違いはないと信じていたから。

同じ女である私が到底辿り着けない神々しさが、たよにはあり、誰がなんと言おうと彼女は美しい。

そんな素晴らしい夫婦で、この二人の周りには権力、財力とは無縁のごく普通の庶民がたくさん集まってくる。
しかしそんな普通の庶民たちとの交流には多くの観客がつい心を絆されてしまう。

この感覚はそう、たしか黒澤の『どん底』を観たのと似ている、あちらは長屋に集まる、喧嘩ばかりの底辺の人たちの姿だが、ラストなにもかも楽天的に引き受けて「こんこんチクショーこんちくしょー」♪と笑って踊っていた姿が彼らの飲み明かす姿と重なる。

派手な演出も展開もなく、決して派手な映画ではなく、ストーリーも淡々と進行して行黒澤が日本人の良心を描いた秀作であることは間違いない。
シンプルに見せる脚本のおかげで本当の人間の強さとは?について改めて考えさせられる作品でもあった。
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