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PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTORのsanbonのレビュー・感想・評価

3.6
シリーズにとって「PSYCHO-PASS3」が必要だった理由とは?

今作は、2019年に放送されていた全8話からなるTVシリーズラスト直後から幕を開ける構成となっており、良く言えば前置きが無い分序盤からいきなりのクライマックス展開を見せる事となる訳だが、悪く言うと完全なるTV版の延長であり、本来なら今作を含めても1クール12話分の中に十分収まるボリュームなのだから、劇場版として興行に乗せる価値は果たしてあったのかと疑問が過ぎる。

しかも、文字通り結末は全て劇場に持ち越されてしまった為、TV版で明かされた真実はほとんどなく、その上シリーズ屈指の難解なストーリーであったせいで、1話1時間というTVアニメでは特殊な放送形式も今一つ盛り上がりに欠けたまま最終回を迎えてしまった。

そして、コロナの影響をもろに受けてしまった今作は「Amazonプライム」での公開日との同時配信もほとんど話題にも上がることなく、劇場での興行にも失敗し、ひっそりとレンタル落ちしたのだった。

とはいえ、一期からアニメと劇場版は全てチェックしてきた身としては、実質3の最終回にあたる今作を無視など出来るはずもなく、ようやく鑑賞する運びとなった訳だが、率直な意見を述べると正直ガッカリだった。

何故なら、今シリーズが前2シリーズに対して完全に独立した物語だったからである。

というのも、3放送直前には主要キャラ3名に焦点を当てたトリロジー「SS」シリーズを公開し「狡噛慎也」が「外務省」の捜査官として日本に戻ってくる伏線を張り、3本編では前2シリーズの主人公「常守朱」がとある事件により勾留されているという衝撃の展開をみせていた。

ともすれば、期待するのは狡噛擁する外務省と「公安局」との密接な共闘であり、常守が捕まる原因となった事件と今作の事件との関連性と謎の解明に限るのだが、蓋を開けてみればTV版の裏で暗躍を続けていた外務省の面々も、劇場版では取って付けたようなどこか都合の良い使いっぱしりのような扱い方をされており、常守の勾留理由に至っては次回作以降の引きを作る為だけに小出しにしていただけのようで、今作の一連の事件には一切関係のないものと判明する。

更には、今シリーズで新たに登場した「ビフロスト」なる謎の組織は「シビュラ」の盲点を私的に利益化する存在だと今作で明かされたが、その直後に呆気なく破壊されてしまうし、それを行なった「法斑静火(ほむらしずか)」も真の目的は不明のまま次回作以降に持ち越してしまった。

このビフロストが崩壊した事により、今シリーズの謎であった「コングレスマン」やら「インスペクター」やら「キツネ」やら「ラウンドロビン」など(未見の方にはさっぱり理解不能だろうが、見ていた側でもよく分かっていないのでご安心を)があらかた片付いた事になるのだが、そうなると次回作以降はまた新たな事件が物語の争点になるという事になり、それでは今シリーズ自体が現時点でPSYCHO-PASSとして存在しなくてはならない理由が分からなくなってくるのである。

今シリーズの主人公としては「慎導灼(しんどうあらた)」と「炯(けい)・ミハイル・イグナトフ」の二人がいるのだが、やはりPSYCHO-PASSといえば常守朱と狡噛慎也の物語であり、最終的にはそこに集約されるべきなのだが、PSYCHO-PASS3単体で見た時に常守が物語に絡んでいない事、狡噛が脇役のお役立ちキャラのようになっていた事がどうしても気になってしまうし、今シリーズで起きた事件が今シリーズ中で解決されてしまった事がどうにも納得がいかなかった。

と言っても、次回作がある事が既に決まっている前提だと、その内容如何でこの胸のモヤモヤも解消出来る可能性は大いに孕んでいるのだから、今から未来を見据えた不満を言っていてもしょうがないのだが、あくまで現時点での感情をぶち撒けると、個人的には完全なる否である。

あと、余談だが今作のSEは少々大雑把に感じた。

例えば、顔を殴る際の打撃音などは、硬いものが折れる音を強くしすぎたせいで、完全に鼻や歯が折れたような音に聴こえるのに、作画では一切反映されておらずとても違和感に思えたり、作品としてのクオリティも並だったように感じた。

とりあえず、ここまでくれば地獄の果てでも着いていく予定ではあるので、次回作にこそ期待したい。
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