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サイコビッチのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

サイコビッチ(2019年製作の映画)
2.0
[モブキャラまで聖人だらけで確かに息苦しい] 40点

普通であることの難しさとその必要性についての映画だが、対比される周りの"普通"描写が過激すぎて完全な意見統制の進んだディストピア感の方が強く、全く以て奇妙かつ薄気味悪い。やりすぎだろ。それか北欧が進み過ぎか。最早友人の事しか考えてないモブ同級生、翻弄するように見せかけて唐突に主人公への一途な思いを開花させるレアちゃん、絶対に叱ることをせずに寄り添う両親や教師に至るまで、この映画で声を荒げる人は存在しない。警備員以外。こんな感じの聖人たちに囲まれた主人公だけが"淀んで"いくような感じが逆に強調されてしまって、全然ノレなかった。劇中"サイコビッチ"と呼ばれるフリーダだって、掘り下げが甘すぎて所謂"マニック・ピクシー・ドリーム・ガール"(この手の定義不鮮明な用語はあまり使いたくないが)という枠組みを出ることはない。彼女には中々にセンシティヴで興味深い背景があるのに、匂わせるだけ匂わせてただの味付けにされてしまうあたり、自殺志願者をバカにしてるとしか思えないし、"自殺には明白な理由なんてない"とかサラッと言っちゃうのは完全に逃げてるだけでしょ。というかそもそも、自殺に明白な理由なんかないというのは半分真実で半分虚構でしょうに。自殺するかしないかは閾値を超えるか超えないかの問題で、閾値まで積層した事実と超えたきっかけに対しては、言語化出来ないだけで確実に理由はあるんですよ。そのへんも薄っぺらい。自殺なんか考えたことなんかねぇだろ、こいつ。

よくよく観てみてみると例のセラピーシーンでも"口に出すことはいいこと"とか"さらけ出して気分が良くなった"とか抽象的なことしか言ってないので、最早何をしてんのかもよく分からん。"俺らは普通です"という概念だけが先歩きしているような浮遊感。そもそも根本的にマリウスを主人公にするならもっと別のアプローチがあったような気がする。

一際目を引く冒頭の屋上シーン以外は、同じような映画が沢山思い付くし、一ヶ月後にはその中に埋没しているだろう。なんかラストも凄いことやってますという雰囲気の割りに薄っぺらいし爆発力もないし、取り敢えずマリウスと監督はレアちゃんに土下座して謝れ。あーあ、楽しみにしてたのに。

追記
サントラだけはどれも良かった。シグリッド最高!
鑑賞時のメモを読んでたら、楽しそうな字で"『ローラーガールズ・ダイアリー』"と書いてあったので、あのプールのシーンくらいまでは楽しかったんだなと。
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