無名のひと

カフカ「変身」の無名のひとのネタバレレビュー・内容・結末

カフカ「変身」(2019年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

原作は未読。
ある朝グレゴールが目覚めると、自分が一匹の巨大な虫に変身していることに気がついた。
周囲や自分を観察して状況を把握する。
声を出そうとしてみても、従来のような声は出せない。
終始ナレーションをメインに描かれている(恐らく原作を読み上げている)
いつまで経っても目を覚まさないグレゴールを家族は心配したが、部屋は内側から鍵をかけられていて開けることができない。
勤め先の上司が心配して家を訪ねてくるが、家族が体調不良だと説明しても、顔も出せないグレゴールは上司の怒りを買って首になってしまう。
グレゴールが扉を開けて部屋の外に出ると、当然その姿は恐れられた。
食事は妹が運んできたが、口に合わず吐き出してしまう。
残飯は不思議と食べることができた。
妹は兄が動きやすいよう家具を部屋の外に出そうとする。
しかし母親は、人間としてのグレゴールを尊重したい思いから、家具の移動を拒むのだった。
足が悪い父親、喘息持ちの母親、家事手伝いの妹のためにグレゴールは働いてきた。
音楽の才能がある妹を音楽学校に行かせるのがグレゴールの望みだったがそれすら叶わず、稼ぎ頭を失った家はたちまち困窮してしまう。
グレゴールはなるべく姿を見せないように、ひっそりと部屋で暮らす。
しかし、グレゴールを不気味に思う感情はどうにもならず、掃除の行き届かない部屋は次第に荒れていった。
一家は経済状況を改善しようと、一室に三人の男を下宿させることにする。
豪華な食事を給仕し、彼らが妹のバイオリンに耳を傾けている時、同じくその音色に引き寄せられたグレゴールのが部屋から出てきてしまったのだ。
こんな話は聞いていないと憤慨した男たちは、宿泊費は払わず損害賠償を請求するとまで言って出て行った。
父親にリンゴを投げつけられ、そのうちのひとつがグレゴールの体に食い込む。
両親や妹は嫌悪感も露、グレゴールはもう家族の一員として数えられなくなっていた。
激痛の中で、グレゴールは少しずつ衰弱していき、とうとうひとり静かに息を引き取った。
その後肩の荷を下ろした一家は旅行に出掛ける。
閉塞した家の中ではなく、明るい日の光の中で妹は解放感に背を伸ばすのだった。



これまで、グレゴールは家族のために真面目に働いてきた。
妹を音楽学校に通わせてやりたいと思うほどの優しい男に降りかかる想像を絶する困難。
まさに不条理としか言いようがない。
不気味に思いながらも、最初はまだ家族という思いがあった。
しかし、困窮を極めるとそれが全てグレゴールのせいだとでも言わんばかり。
グレゴールの変身は、同時に家族にも大きな変化をもたらすことになった。
でも、家族にとってもこれは不条理な変化だし、さすがにあんな巨大な虫には嫌悪感を抱かざるを得ない。
ちなみに、Gに似てはいるけど背は固く羽は無さそうだった。
この虫の何が気持ち悪いって、目が一番気持ち悪い。
白目があるのは人間だけなのに、この虫には白目がある。
顔も鼻の下が長い人間のようにさえ見え、それがいっそう嫌悪感をあおっている気がする。
CGはチープ。
上司のあたりまでの演技が無駄にオーバーで笑いをさそった。
掃除婦が入り口だけをデッキブラシで擦って「今日は終わり」ってとんだ給料泥棒だ。
でも、グレゴールに対して最初から順応しており、この頃は掃除婦しかグレゴールに話しかける者はいないのが悲しかった。
グレゴールの遺体を、デッキブラシでつついた時の、妙に軽いチープな張りぼて感には思わず失笑。
家族が不条理な形で急に変わってしまう可能性は大いにあり得る。
病気や障害で、本来のその人ではいられなくなる変化。
時に家族にとって重荷になる場合もあるかもしれない。
朝起きたら突然虫になっていたグレゴールのように、ある日突然それは訪れるかもしれない。
グレゴールの場合は虫だったけれど、遠くないことはあり得ると思ってしまうと急にやるせない思いになった。
自分が、家族がある時急に虫になってしまったら、私や周囲はどうなるだろう。
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