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カフカ「変身」のmidoredのレビュー・感想・評価

カフカ「変身」(2019年製作の映画)
4.0
不条理文学の傑作『変身』をとても忠実に映像化しております。原作通り不条理すぎるストーリーにかなりモヤモヤさせられますが、シュールでユーモラスでグロテスクで淡々としていて、もう好きで仕方ないです。

低予算ながら見事なカフカでした。各登場人物たちの演技もいかにもカフカに出てくる人物らしいし、「虫」も見るたびゾッとする造形で素晴らしい。本を読んでいるときの想像をそのまま映像化したよう表現ふくめて原作への愛とリスペクトに満ちた大成功な劇場版『変身』だと思います。

特に好印象なのはグレゴール・ザムザ(虫)のCGですね。いかにも無機質で虫らしく嫌悪感を誘いつつ、人間の哀愁も漂わせる絶妙なデザインなのです。そこらの虫なんか目ではない奇怪な人間虫。あれなら家族でも目を背けるでしょう。

身体は虫なのに目だけが人類なのが余計に気持ち悪くて、ザムザが上司に追い縋るシーンなど、気持ち悪いやら怖いやらで素晴らしい出来栄えでした。昔、知り合いが『変身』を読んで爆笑したと言っていたのも今更納得です。こうして映像で見てみるとかなりシュールな悪夢なんですね。怖いのに可笑しくて、可笑しいのに怖いという狂気じみた世界。このシーンだけ10回くらい繰り返して見て見たいような味わい深さです。人によってはホラー映画の分類かもしれません。子供がみたら悪夢にうなされるかも。

そのほかにも、体にめり込むりんごの変色やら、怪我した後に生える謎の体毛や、虫らしい死後硬直ぶりなど細かい描写にもいちいち痺れました。虫のCGを見ているだけで出来事の不条理性および悲劇性が伝わって来ました。
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