ちけ

カフカ「変身」のちけのネタバレレビュー・内容・結末

カフカ「変身」(2019年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

食欲も失せるほどのグロテスクな姿を想像してたのに、意外とキュートな目と仕草で笑った
期待してたジャケットの姿でもムカデでもなくて残念

事業の失敗で破産した父の借金返済のためと、才ある妹を音楽の学校に通わせるため、毎日真面目に働き家族を想って誠実に生きてきた結果がこれ。ある日突然醜悪な虫の姿へと変貌し、家族からは冷遇される。食卓には着けず残飯を漁る生活。以前の当たり前の生活には戻れない。虫の姿だから折れてしまった足と父に傷つけられた背中は治らない。救いがほぼ無い

最初グレゴールは諦めずにこの体で出来ることを前向きに模索する。妹も寄り添ってくれていたから希望が垣間見えたけど、日が経つにつれ少しずつ人間の頃の記憶は薄れていくし、いつこの化け物の姿から元の姿へ戻れるのかずっと不安は抱えたまま。妹と父のストレスも日々膨れ上がる。
妹が演奏する音楽からは人間讃歌を感じさせてくれるのに、妹自身からは化け物として扱われる。関係は改善されなくて見てて辛かった。

虫だからか寿命が短かったことが救いに思える。このまま邪険に扱われて生き存えることが可哀想だったし家族にいつか殺意を向けられて殺されるよりも自室で静かに死ねて良かったと思う。なんだかホッと安心した自分がいた

グレゴールが自室に戻ろうとして引き返す際、虫の体だから一度前に進んでUターンしなければならないところで近づくなと妹にヒスされてたシーンも描写が細かくて良かった

ラストでは誰も虫となった前後のグレゴールのことを想わないし、忘れる事に努めて新たな生活に想いを馳せる家族の様子がかなり不快だった。家族の明るい雰囲気とかなりゆっくりの不気味なフェードアウトで締めてたのが胸糞の悪さを際立たせて良かった。
過去を顧みようとしないで前しか見れない家族の方こそ虫になってしまったのかもしれない

綺麗なクラシック音楽と醜くて不快感漂う構成が絶妙だった







ここまでグレゴール可哀想的な視点で書いたけど、グレゴールが何もアクションを起こさなかったのも不快だった
虫の体になったとは言え人間の思考は残っていたから、まずは部屋の掃除をして清潔感を保つとか、些細なことから敵意を思わせないように努力すればいいのにとか思った
時間はたくさんあったのだから。
もしかしたら色々改善に向けて実行しようとはしてたけど見た目以上に体が不器用で出来なかったのかも知れないけど…
言葉が話せたから徐々に対話から始めるのも良かった筈だし、
母親はグレゴールの見た目で卒倒するとは言え心は味方でいてくれたから、母親の信頼を得るところから始めるのも良かった筈

とは言え、実際に家族がいきなり消えてそこに未知の化け物の姿しかなかったら、その化け物が消えた本人かどうかなんて信憑性が薄いし、双方で努力を尽くしたとてこんな奇々怪界な状況じゃほぼ無意味にも思える。現実だとハッピーエンドの期待は難しい。
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