Mikiyoshi1986

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

3.8
いかにもミニシアターでひっそり上映してそうなドキュメンタリー映画ですが、(名古屋なら名演小劇場かシネマスコーレぽい)
閉鎖的ムードの昨今、閑散としたシネコンで本作が粛々と上映されている状況に、物凄いアンビバレントな感情が沸き上がってきました…!

60年代末、世界中の若者が同時多発的に左傾化し、まるで猛威を震うウイルスの如く急進していったリベラリズム。
当時日本でその急先鋒にあった東大全共闘の学生たちが戦後派文学の右翼英傑・三島由紀夫を自らの解放区に招き入れ、繰り広げられた歴史的舌戦がこの度スクリーンで蘇った!
右と左。保守vsリベラル。ロック対パンク。布袋寅泰vs町田康…。なんて形骸的な言葉では到底形容しきれぬ、とにかく白熱しきった"知"の頂上決戦がここに開幕。

内容は今までにもYouTube等で映像及び音源があがっていたため特筆する新発見はありませんでしたが、
治外法権的空間でのあの瞬間にのみ実存した確固たる不均衡な秩序、余裕が捻り出す嘲笑と緊張感とが渦巻く思考の応戦、そして偏差値70クラスの沸騰する千の頭脳が講堂にぎっしり密集した熱気とで、それは我々が黙座する場内へと勢いよく流れ込んできます。

本討論はボクシングのように相手をマットへ沈めるために乱打するスポーツ的肉弾戦と違い、
それこそ敬意の上に成り立つ武道のように一進一退し丁々発止、互いが的確かつ鋭い打突のみに注力した剣道のようでもあります。
双方の言葉が絶妙なバランスと速度によって交互に高々積み上げられていく、この興奮度合いがもう堪んない!

またイデオロギーは真っ向違えど、俺は俺たちの未来をただ良くしたいだけなんだ!という純粋な変革願望のみを共通認識として絶妙なグルーヴを生み出す、一種のジャズアドリブのようでもありましたね。

しかし戯曲的な三島と対等にやり合ったコンテンポラリーな芥正彦は当時キンキンに尖りまくっていますが、お年を召された74歳現在もなお尖りの極地に鎮座されておられるのが何よりも最高。
闘争に明け暮れてその後は地方公務員などに成り下がりバブルに浮かれたゲロダサな諸先輩方よ、
行動によってのみ己を律し、そして美を抱えながらしっかりと去っていかれた三島の巨星っぷりを決して笑うことなかれ。

では最後に藤岡弘、史上最大の迷言でも引用してここはお茶を濁すとしましょう。
「右翼も左翼もない、仲よくだ。合掌。」
Mikiyoshi1986

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