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パピチャ 未来へのランウェイのshunのレビュー・感想・評価

4.0
上智大学で行われた上映会で観てきました。
劇場公開時から気になっていたので行けて良かった。

90年代のアルジェリアを舞台に命懸けでファッションショーをしようとした女性たちの実話に基づく物語。

「服装は関係ない。偏見が女たちを殺すのよ」

この映画の背景にあるのはフランスによる植民地支配と家父長制度の二つ。
まずフランス支配下ではフランス語が強要され、独立後にその反動からアラビア語政策とイスラーム化政策が行われた。しかしこれらは矛盾に満ちており、フランス語を話せないと良い職にはつけずに貧困に陥り失業していく人が続出した。このような人たちがイスラーム原理主義勢力と結びついてフランスや西欧的な考えを否定、攻撃していくこととなる。

次に家父長制。男性中心の保守的な考え方が女性たちを苦しめる。
この映画では若い世代の男性としてメディとカリムという一見正反対の考えを持った2人が登場する。メディはリベラル思考でカリムはイスラーム的、それでも女性を拘束する家父長制的性格は共通していた。

この二つの壁が「ファッションショーをやりたい」という少女の夢の前に立ちはだかる。

劇中にここまで「共感できる男性キャラ」、「いい男性キャラ」が出てこない映画も珍しい。いかに女性にとって生き辛い環境であったかが伝わってくる。そしてもちろん同性間での対立もある、信仰を振りかざし暴走する女性たちなど。

ポスターや邦題からは想像できないほど緊張感のある映画でした。
他の国では普通のこともここでは命の危険に晒される。それでも誰がなんと言おうと「自分はここに満足している」「闘う必要があるだけ」と離れようとしない主人公。
故郷を愛し、そして同時に故郷に愛されることがどれだけ恵まれていることか。

そもそも宗教は個人の問題だと思うのだけど、どうしてこうも宗教関連の争いが絶えないのだろう。
冷戦の終結は同時に「無神論のソ連が有心論のアラブに負けた」ことも意味している、と一緒に行った祖父が言っていた。それによって90年代はイスラームの力が強大化したのだと。

今はアルジェリアでは7割くらいの方がヒジャブをしていて、していなくても攻撃されるようなことはないそう。
それでもアルジェリアに限らず家父長制、一夫多妻制は残っているし正直30年前と今とで何が変わったの?と思ってしまうこともある。
最近ジェンダーの授業で日本がいかに遅れているかみたいなことを扱ったのだけどそれでもまだ進んでいる方じゃないかなと思ってしまう。

主演はリナ・クードリ。「フレンチ・ディズパッチ」でシャラメ君のお相手してて印象に残ってたけどアルジェリア出身の女優さんらしい。
今作でセザール賞受賞したらしいけどぜひハリウッドで成功してほしいな。
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