明石です

マリグナント 狂暴な悪夢の明石ですのレビュー・感想・評価

マリグナント 狂暴な悪夢(2021年製作の映画)
4.6
人体実験によって生み出された悪性腫瘍(マリグナント)が、20年の月日を経て、研究に関わった人間を惨殺して回る新感覚ホラー。元被験者の主人公が、殺人犯を追ううちに、彼女にしか解けないかたちで謎が解明されていくサスペンスな仕掛け。幽霊かモンスターか、はたまた人格障害か、二重三重の可能性を用意しながら進んでいき、結果、そしてそれらのどれでもないというまさかのプロット。幽霊が生きた人間の首をねじ切ったりなど、少し前までのホラーでは当たり前だった、現実にありえないにもかかわらず映画の中でだけは当然のように起こる、ご都合主義ホラーの伝統を打ち砕く、素晴らしく厚みのあるアイデアでした。

心霊ホラーというジャンルが50周年を過ぎ、ややマンネリ化しつつある今の時代、これほどのアイデアでもって「オカルト」と「殺人」を掛け合わせ、ジャンルそのものの開拓に果敢に挑戦していく姿勢に、さすがはジェームズワン監督!と唸らされる。そういえば本作の少し前にヒットした『透明人間』も、ジャンルムービー内の開拓というその同じ点で頭ひとつ抜けてたように記憶してる(面白くはなかったけど)。シルヴァニア·ファミリーみたいに天井をくり抜き、空から家の中を映して見せたり等、演出の仕方も堂に入ったもので、ホラーとは何かを知り尽くし、その上で新たなスタイルを追求しようとしてるこの感じ、1ファンとしてワクワクさせられる。あとここまでくるともはやスタイリッシュでさえある笑。ホラー映画なのに!!

ただ、演出面の目新しさの反面、プロットはけっこう甘くて、たとえば、超一級の国家機密であるはずの主人公の医療記録が、彼女がかつて人体実験を受けていた、いまでは廃墟になっている研究施設の資料室(鍵さえかかってない)から普通に出てくるあたりは、ご都合主義サマサマ!と思ってしまった笑。関係者が全員生きてる(何しろ元被験者が、彼ら関係者を惨殺していくのがストーリーの本筋)という設定なのに、そのご存命の研究者が、自分たちの研究資料を当たり前のように廃病院に放置してるってどういう事情なの笑。

そして「マリグナント」が完全に目を醒ましてからは、主人公無双系のアクション映画に様変わり。ワイルドスピードっぽいスローモーションを多用した演出がそのイメージに拍車をかける。まさかこんな展開になるとは、、ジャケットとタイトル、そして監督の過去作からも想像がつかない、本当に新境地ですね。しかし、何がどうなってこの「悪性腫瘍」がアサシン·クリードなみの無敵モンスターに変貌を遂げたのか、そのあたりの説明がありそうで一切ないのが少し心残りでした。いずれにせよ、自分が生きてる間に、同時代的にホラーが進化していく過程を見られそうだという期待を持たせてもらえて大満足!なので高評価する。
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