空海花

ミナリの空海花のレビュー・感想・評価

ミナリ(2020年製作の映画)
3.6
A24×プランB
監督リー・アイザック・チョン
アカデミー賞助演女優賞受賞(ユン・ヨジョン)、ノミネート6部門
ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞

時は1980年代、アメリカ・アーカンソー州の田舎へと移り住んだ韓国系移民一家を描く。父は農業で成功することを夢見た。

移民、そして更なる移住。
姉弟と共に自分も草原に脚を踏み入れる。
不安入り交じるワクワク感。
しかし、トレーラーハウスの最初の脅威はハリケーンという自然の脅威だ。
妻と共に私も出鼻を挫かれる。
子供の病気を考えたら、病院から遠い田舎に住むことを私も拒否するだろう。

土を耕し、水源を掘る。
農作業に生き甲斐を感じる夫。
ひよこの選別が名人級に早い彼は元来、相当勤勉だったはずだ。
単純作業をずっと続けてきた彼がやっと見つけ出した生き甲斐。そして夢に思いを馳せる。

しかしアメリカンドリームは甘言のように簡単にはいかない。
喧嘩ばかりの夫婦。
すぐ涸れる水。
教会に韓国系の仲間は居ない。
子供たちはいくらか柔軟だ。
好奇心というみずみずしい視点は
監督の子供時代を映し出すデビッドの物語。


以下内容に触れた感想を⚠️




おばあちゃんがやって来た途端
閉塞した空気に躍動感がみなぎってくる。
それで何かが変わる訳ではない。
おばあちゃんはもっと奇抜なのかと思っていたけれど
めちゃくちゃ優しいではないか。
デビッドはこの祖母と奇妙な絆を結んでいく。

“ミナリ”は韓国語でセリ(芹)
湿地や水辺などによく育つそれは、
2度目の旬が一番美味しく、それが2世である子供たちへの思いに喩えられているようだ。
韓国語を全く知らない私がその言葉を聞くと
ミ=水、ナリ=成る を音から連想する。
この話にはずっと“水”が付き纏う。
五行説だと「水剋火」水は火に剋つ。
この家族はキリスト教だし
全然関係ないだろうけれど。
「おばあちゃんの勝ち」だと父は息子に言った。
ここを見つけたのはおばあちゃんだ。
土地が合わないことを“水が合わない”とも言う。
と、日本人の感覚をちょっと入れたくなってしまった。
まぁ花札とか日本統治時代を過らせてはくるのだが。

韓国系移民の物語。
そんな意味でもこれは意義高い作品でもあり
そしてそれは民族を超えた共通の意識でもあるのだろう。
でも実は少し入りこみにくい。
キリスト教の示唆も多く
ポールが十字架を背負っているのはなかなか驚いた。
おばあちゃんの祈りがああなってしまうのもショック。
象徴的な要素がある作品は好きな方なのだけれども、ちょっと立体感が感じられなかったというのが正直なところ。

これまでフォロワーさんのレビューを読んで頭にあった日本の2つのドラマに、
やはり親近感と深みを感じてしまう。
ユン・ヨジョンのラストカットは素晴らしいと思ったが
そこに至るまでが唐突というか、層を感じられなかった。

スティーヴン・ユァンの外見のさわやかぶりに、これなら説得しきれるのでは?という余計な考えが生まれる(笑)
『82年生まれ、キム・ジヨン』の親世代ということになるので、それは難しそうだ。
韓国系アメリカ人である彼自身も製作総指揮に名前を連ねている。
ただ祖母が居るシーンのような生活感、
土臭さのようなものが足りないのかもしれない。
彼が、という訳ではなく、全体的に。
ポールにはあったかもしれない。

それでも伝わるものを受け取れる人生は素敵だなと思える良作。


2021レビュー#097
2021鑑賞No.182/劇場鑑賞#8
空海花

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