りょー

ミナリのりょーのネタバレレビュー・内容・結末

ミナリ(2020年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

心機一転新生活は波瀾万丈。あなたに残っているものは何?理想と現実、夢と家族、愛と失墜、昔と今、子から親へ、親から子へ。明日からどう生きていこうか、メンタルリセット映画。

【あらすじ】
韓国系移民のジェイコブは、農業で一旗あげたいという長年の夢を叶えるため、アメリカ・アーカンソー州の荒野へ家族と移住する。しかし、事前に相談もされなかった妻モニカは理想との落差に愕然とし、心臓の弱い息子デイヴィットの身体を案じる。親の心配を他所に逞しく成長していく子供たち。そこに破天荒な祖母も加わり……一家は様々な苦難にのみこまれていく──。

【感想】
“移民の物語”や“アメリカ人にしか共感できない映画”としてだけで、パッケージ化してしまうのは、あまりに勿体ない熱量が、この作品にはある。

本作の監督、リー・アイザック・チョンが、自身の幼少期の体験とウィラ・キャザーの原作をベースにしていると言っている以上、監督本人の出自と映画とを切り離すことは出来ない。

デイヴィッドが幼少期の投影だとするなら、当然家族も投影であるし、父も監督の父本人の投影でも、部分的にはあるのだろう。

そして、スティーブン・ユァン演じる父は、実父の投影であると同時に、現在の父になった(大人になった)監督自身の投影である気がしてならない。

映画人として華々しいデビューを飾るも、その後鳴かず飛ばずだった監督業。家族を養うため、大学講師へのキャリア転向を考える渦中で書き上げたのが『ミナリ』らしい。

家族のためという名目と自分の夢。

もし、この『ミナリ』で失敗していたら、ジェイコブに、あの日の父のようになっていたかもしれない。

でも、決して父を、そして祖母を否定しているわけではなかった。

湿地帯奥地ですくすく育つミナリ=セリ(春の七草の)のように、残っているものがあるし、どんな環境でも、あの頃の自分のように育った子どもも家族もいる。

そして、父になった監督から、自らの子どもたちへの成長を願っているというメッセージでもあるように感じた。

インタビューで監督は、自分の生い立ちを娘たちに伝えたかったと話している。

本作が、プライベートな作品の域を越え、大衆映画としての共感性を獲得できたのは、移民国家であるアメリカが舞台であるのは勿論そうなんだけれど、「家族」や「夢」といった普遍的な要素も大きいんじゃないかと思う。


【メモ】
「ウィラ・キャザー」という声が聞こえて来た。

そこから脚本制作に取りかかったという本作。

そのアイデアを逃すまいと思い立ったのも、デヴィット・リンチ監督の

「アイデアは希少だから、見つけたら何としても逃してはならない」

という言葉かららしい。

『ミナリ』を観て、インタビューやらを見漁って。この言葉にたどり着いただけでも、個人的には満足な映画紀行なのでした。

ハリウッド版『君の名は』楽しみにしておりまっせ。
りょー

りょー