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MINAMATAーミナマターのYYamadaのレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
3.7
【ヒューマンドラマのススメ】
 ~映画を通じて人生を学ぶ

◆作品名:
MINAMATA-ミナマタ- (2020)
◆主人公のポジション
 堕落したかつての一流カメラマン

◆該当する人間感情
 悲痛、憤慨

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・1971年、ニューヨーク。かつてアメリカを代表する写真家と称えられたユージン・スミスは、現在は酒に溺れる日々を送っていた。そんなある日、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しんでいる人々を撮影してほしいと頼まれる。
・そこで彼が見たのは、水銀に冒され歩くことも話すこともできない子どもたちの姿や、激化する抗議運動、そしてそれを力で押さえ込もうとする工場側という信じられない光景だった。ユージンが撮影した写真は、彼自身の人生と世界を変えることになる…。

〈見処〉
①一枚の写真が世界を呼び覚ます——
・『MINAMATA-ミナマタ-』は、2020年に製作されたドラマ映画。1975年に発表された写真集『MINAMATA』(1975)を基に、アンドリュー・レヴィタスが監督を務める。
・1970年代、熊本県水俣市のチッソ工場の廃水を原因とし、現在まで補償や救済をめぐる問題が続く「水俣病」(水銀中毒)を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスとその妻アイリーン・美緒子・スミスの活動を描いた本作。製作を兼務するジョニー・デップがユージンに扮し、ビル・ナイ、真田 広之、國村 隼、美波、加瀬 亮、浅野 忠信、岩瀬 晶子ら実力派キャストが共演。音楽は坂本 龍一が手掛けている。
・撮影は、2019年1月より、日本から遠く離れたセルビアとモンテネグロに200人を超える日本人エキストラを招集し、日本の漁村のセットを組み実施された。
・なお、本作は2020年2月のベルリン国際映画祭でワールドプレミアが行われたが、ジョニー・デップが「2017年に離婚した元妻アンバー・ハードに対するDV報道」の汚名払拭のため、英タブロイド紙『ザ・サン』に起こしていた名誉毀損裁判が、2020年11月に敗訴。『ファンタスティック・ビースト』シリーズの降板と歩調を合わせ、本作の配給権を所有していた米MGMも北米公開の見送りを発表していたが、レヴィタス監督の働きかけなどによって、MGMにかわり北米の配給権を得た米ILBE社とSamuel Goldwyn Films社の協同配給にて、2021年12月15日から北米公開が開始された。

②水俣病
・本作で描かれる「水俣病」は、明治後期創業の日本の化学工業メーカー、日本窒素肥料(現・チッソ)の水俣工場で引き起こされるが、そのルーツは1932年から(塗料の溶剤や塩化ビニールなどに加工される)アセトアルデヒド製造の操業を開始し、副生成物のメチル水銀を含んだ廃液を海に無処理で放出していたことに遡る。
・戦後復興期の1950年代に入ると、その化学資源量産が要因となり、1953年頃から周辺の漁村地区で猫の不審死や、特異な神経症状を呈して死亡する住民がみられるようになる。1956年5月には「原因不明の中枢神経疾患」として水俣保健所に報告された事例が水俣病の最初の公式認定となり、同年11月には、熊本大学医学部がチッソの工場排水に含まれる重金属に原因がある可能性を指摘。
・しかしながら、チッソはこの説を真っ向から否定。1959年には本作でも描かれたチッソ内部の「猫実験」の結果も公にせず、その間も魚を多く食べていた漁民が罹患。この騒動で魚が売れなくなり、漁民が魚を食べるという負のスパイラルが、更なる患者の拡大を招いた。
・高度経済成長の中で、企業も国も歯止めをかけなかったことが、60年以上経った今も「水俣病」の認定を望む患者が後を絶たないなど、本当の収束には至っていない、日本の恥ずべき社会問題である。

③結び…本作の見処は?
◎: スミス夫妻が水俣へ移住した1971年12月に撮影された写真「入浴する智子と母」は、遺族とアイリーンの話し合いにより、20年以上封印されていた幻の一枚。本作では、その写真が使用されているが、LIFE誌編集長役のビル・ナイの表情が物語るように、水俣病患者の魂の叫びが乗り移ったような、衝撃の写真が本作のメッセージ性を強くしている。
○:「世界のサカモト」坂本 龍一による本作の楽曲は、頭から離れない強い印象を残す。
○: シリアスなジョニー・デップはいつ以来だろうか?一見すると、彼とは思えないほど、娯楽作品ではないドラマ作品でも対応出来る演技力を披露している。
×: 本作で描かれる「写真家ユージンへの賄賂」や「写真の現像小屋の放火」は史実ではないようだ。本作のような重厚なテーマを扱う作品には稚拙なサスペンス要素は不要だと思うし、本作の良いところが実際の写真である点が、映像化作品として残念である。

④本作から得られる「人生の学び」
・権力と闘え、自分のためではなく、将来の世代のために。
・文化は違えど、正義を思う心に国境はない。
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