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MINAMATAーミナマターのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

1971年、アメリカの写真家ユージン・スミスはかつて「ライフ」誌に掲載された数々の報道写真で有名だったが、酒びたりの隠遁者となっていた。ある日、日本のCM撮影を引き受けたユージンは、通訳のアイリーンから、日本を訪れて水俣病を撮影・記録するよう懇願される。

世界的写真家ユージン・スミスが撮影した水俣病の写真集が、いかにして生まれたかを描いた実話ベースのドラマの秀作。

水俣病については、中学校の授業で習った。
教科書に載っていた写真(「とも子と母親の入浴」)が衝撃的で、長い時間直視など出来なかった。
子どもの私にとっては他人事であり、その写真を「気持ち悪い」とさえ思った。
大人になってから、ユージン・スミスの存在を知ったが、あの時の教科書の写真の向こう側にこんなドラマがあったとは…。
無知で偏見に満ちていた自分を大いに反省した。

思いもよらぬ特ダネにジャーナリストとしてもう一花咲かせたいと考えたユージンは水銀中毒と水俣病による沿岸地域の被害を記録するために、日本の水俣を訪れた。
水俣病は、化学会社チッソが工業廃水で引き起こした産業公害が原因であった。

ユージンは、地元の警察や政府の共犯者である企業の強欲さがもたらす破壊的な影響の正体を暴くために最善を尽くすことを住民たちに約束する。

はじめは人々に溶けこめず、了解もなしに町の人々にカメラを向けシャッターを切り、患者からは撮影を拒否されるユージン。
私たちは異邦人であるユージンの目を通して、公害の影響と惨状を知ることになる。
全く水俣病を知らない人でもユージンとともに少しずつ知っていくことができる親切な作りである。

日本の事件でありながら無知で勉強不足な自分を恥じる思いだが、何とかしなければという使命感が芽生え、何とかして欲しいという期待を酒浸りで偏屈な男ユージンに寄せてしまう。

チッソの病院に潜り込んで水俣病患者の写真を撮ったり、隠ぺい資料を盗み見たりといった行動はさながらスパイ・サスペンスである。
また、強気にチッソ社長の買収提案を足蹴にする展開は「金では動かない」とヒーロー然としていてドラマチックである。

だが、住民が提供した暗室もろとも大事なネガをチッソ陣営に焼かれてしまう。
失意で戦意喪失するユージンに、口の悪い「ライフ」誌編集長のボブがNYから喝を入れる。
自分の名誉のためなどではなく、世界にこの惨状を写真で伝えることが水俣の人々を助けることなのだとユージンはジャーナリストとしての使命感に燃え、住民たちに心を開く。

抗議運動に巻き込まれて重症を負ったユージンを自分たちの同志だと認め、スミスの願いに住民たちも協力していく。

ユージンから送られてきた写真を受け取ったボブは衝撃と深い感銘を受け、早速「ライフ」で水俣病の特集を組む。
水俣の現状は瞬く間に世界中に広く知られることとなり、チッソ側も遂に公害を認めざるを得なくなる。
そして住民たちがチッソを相手取った裁判でチッソの過失責任が認められ、住民たちの勝訴が確定する。

孤独を愛してきた偏屈な男が、カメラを武器にヒーロー気取りで強大な企業という巨悪に立ち向かう。
傲慢にも1人でも戦えると思い込んでいたが敢えなく挫折。
生き方を改めてコミュニティの信頼と友情を得て共闘し、勝利する。
「人間は1人では生きることはできない」という真実を悟る感動ドラマの王道パターン。
そこに異文化交流というスパイスが加わる。

ユージン・スミスを演じる主役のジョニー・デップの見た目から本人に寄せ、やさぐれて反抗的でありながらも心の奥底に優しさやナイーブさを覗かせる力演もさることながら日本人キャストも良い。

もしも日本人側のキャストをドキュメンタリーばりのリアルさを追求して無名のキャストを配したならば、日本人の我慢強さや生真面目さは伝わらなかっただろう。

真田広之、國村隼、加瀬亮、浅野忠信と、英語に堪能で海外の作品に出演経験もある主演級の俳優陣が、主役を喰うことなく助演に回っている。
それぞれの役柄はステレオタイプではあるのだが、海外の人々にも日本人の心情が伝わるよう好演している。

ハリウッド映画ゆえ、エンタメとして物語をドラマチックに盛り上げるために脚色が多く含まれるのは難点ではある。
工場でチッソの社長がユージンからネガを高額で引き取ろうとする買収提案。
夜更けに突如現れ、家を荒らしまわって去っていく制服警官。
ネガを始末するために暗室ごと放火するチッソ陣営のヤクザまがいの行動など、どうみても嘘くさい描写があることは否めない。
だが、ユージンが水俣に来た当初からの心情や行動の変化を語るうえで、この程度に話を盛ることは個人的にはアリだと思う。

物語はユージン・スミスら水俣病を世界に伝えるために奮闘する人々のドラマに終始する。
水俣病患者と家族、住民たちの悲惨な現実はごく一部しか描かれず、水俣病に関して知識のある人や当事者にとっては大きな不満があるだろう。

しかしながら本作は、「この作品をきっかけに水俣病を知って欲しい」という目的で作られた作品であり、また「公害に対して関心を持って欲しい、何か行動を起こして欲しい」という狙いは大いに成功している。

ハリウッドが我が国日本の問題を真摯に取り上げ、異文化のヘンテコな描写も無く、ドラマチックに描いてくれたことには素直に感謝したい。
私のように無知な人間の目を覚ましてくれる作品である。
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