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夜明けを信じて。のkkmovoftdのレビュー・感想・評価

夜明けを信じて。(2020年製作の映画)
3.0
初のハッピーサイエンス映画。そして徹頭徹尾、大川氏がいかにすごいかを延々と自慢される映画。
しかし自慢の中身がうっすい。エピソードが演出がうっすい。脚本書いた人はコロコロコミックくらいまでしか読んだことないんじゃなかろうか。「チチキトク スグカエレ」って電報がほんとに小道具で出てきたり、図書館で同じ本を取ろうとして手が触れ合ってときめく、なんて化石ものの演出を真面目にやってる。基本的には主人公以外の登場人物は全て主人公を褒め称えるだけのスピーカーなので、内面の葛藤とか人間的な触れ合いなんて描かれるべくもない。
「えっ1400冊読んだ君が教授にならないのかい?」
「もううちの業務をマスターしたのか?そしてそれをマニュアルに??……読みやすくて分かりやすい!!」
なんて棒セリフが延々と続く。…しかし裏を返せばこれ書いた人はこんなサンリオ的世界観のまま良い大人になっちゃって挙げ句映画の脚本まで書いちゃったわけで、バカみてぇとはいえある意味幸せかもしれんなぁ。
(※脚本は大川氏の娘さんだそうです)

あとこれ作った人(大川氏本人)はコンプレックスがひどいんだろうなーと思わせる箇所が随所に見受けられた。難しい本を読んで表紙を見せつけて頭が良いアピール、なんてみんなせいぜい大学生でやめるもんだけど、この映画には鷗外から始まりジィド、ハイデガー、アレント、ウェーバーと、これでもかとこの手の本読んでてすごいだろアピールばっかり。その割りにちょっと触れられる中身は「だいたいこんなイメージでしょ」みたいなほぼ水みたいに薄まった内容ばっかなので、本人がほんとに読んで咀嚼してんのかは謎。あとこれ見てスゴイ!と思う人たちも、「何かムズカしい本読んでてスゴイ!!」って認識止まりなんだろうなぁ。何にせよ幸せな世界だ。

劇中では前述の図書館でときめいた大学時代のヒロインにもアレント読んで書いた論文をそのまま送りつけたりしてたが、これもヒドいなぁ。だってまだ一言も話したことない相手ですよ?女性と話すのも苦手だったんで、精一杯頭が良いアピールをするしかなかったのでしょう。しかもひどく拙い一方的なやり方で。映画の中ではモテモテだったけど、その裏に渦巻くルサンチマンを考えると、何かちょっとかわいそうになってきたなぁ。

ちなみにこの抜群の美人設定の大学時代のヒロインがぜんぜん…何というか…見目麗しい感じではなくて、まぁはっきり言うと中の下くらいなんだけど、きっと我々の眼が俗世の汚穢に塗れているからで、霊的な視点で見ればきっと素晴らしい徳度のある女性なのでしょう。大川氏の性癖だったりするわけじゃないですよねきっと。
或いは、散々ヒロインがかわいくないと批判されてたノーラン版バットマンやサム・ライミ版スパイダーマンへのオマージュなんだろうか。高度に霊的な能力を持つ大川氏なので、サブカルチャーへの造詣もきっと深いのでしょう。納得。

大学のあとは一流商社(自称)でのサラリーマン編が始まるが、これもまぁセックスのない島耕作みたいなもんで、なんかザックリした「人柄」みたいなもんで同僚や取引先からも気に入られて商談成功、みたいな面白みのない描写が延々続く。
ニューヨークに一年間研修に行くくだりなんかは、よっぽど嬉しかったんだろうなぁ、熱いテーマ曲と共にぼんやりとNYっぽいイメージ映像が挟まれるが、このときの歌がまたイイ。
「big apple big apple I came to big apple 
 天上から地球が光へ注がれているならば、その光はニューヨークへもきっと注がれているのだろう」みたいな脱力歌詞が軽快なロックに字余り字余りで無理矢理歌いあげられる、NYでの浮かれっぷりや俺すごいぜ感が滲み出るナンバー。もちろんNYのオフィスも、世界まる見えの再現映像あるいは日本臓器製薬のCMみたいな大変にしょぼい感じで、商談も初心者英会話レベルという相変わらずのサンリオ世界。

大川氏の商社時代の功績のひとつが「バドワイザーを日本にもたらした」ことらしいが、思えばアントニオ猪木も日本に初めてタバスコをもたらしてたし、偉人たるもの、海外から日本に何かをもたらさないと一人前とは言えないのかもしれませんね。
またこの頃から大川氏は霊的な人助けもボチボチ始められていたようで、同僚についている悪霊に手をかざしてお祓いしてあげたり(その後同僚は「肩が軽くなった!」と喜ぶ)、「娘と死のうかな……」と思い悩む寮のおばちゃんの心の声を読み取り、肩を叩いて「頑張れよ!」とザックリとしたラフな励ましをしてあげたり(おばちゃんはだいぶ年上)と八面六臂の大活躍。
今でも駅前で「肩が重かったりしませんか?気功で治せるんです。」と話しかけてくる人がたまにいますが、大川氏の教えはきちんと世の中に広まっているようですね。よかったよかった。

とここまで散々に言ったが、昨今の中身のないおしゃれさや空虚であざとい演出に満ち満ちた絶望的な邦画シーンにおいて、少なくとも本作はサンリオ的世界を心から信じる無邪気さと(サンリオさんすみません。でも大好きです)それを演じる人たちの純粋な信心によって成り立っており、そこは稀有な作品であったと思う。
昔作家で信者の景山民夫という人がいたが、何故かあの人タイプののっぺりした顔つきの出演者が多く、画ヅラにひとクセもふたクセもあるのも見ものだし、役者の層が薄いのか主役級以下が軒並み大根なのも楽しみポイント。
大川氏本人がちらっと出演するシーンもあったが、フガフガと何かを言ってるか聞き取れず、ちんちくりんで可愛かったので見ものです。後ろには全く同じ顔の女の子がいたが、あれが脚本書いた娘なんだろうなぁ。やはり肥大しまくった自意識同様に血も濃いんだろうなぁ。なんまいだなんまいだ。

まぁ芸術としての自己表現だったり金儲けではない特殊な動機で作られた珍しい映画なので、貴重な鑑賞経験にはなると思います。
一昔前は小さい会社の社長だとかスナックのネェちゃんが金回りのいい客に金出してもらったりして、ただただ自意識を慰撫するために自主制作の愚にもつかぬレコードを出す文化があったようですが(幻の名盤解放同盟の活動を参照)、これはそんな「俺の話を聞け」式の自主制作映画だと思って見れば良いのではないでしょうか。僕は割と好きです。機会があれば他の作品も見てみたい。
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