半兵衛

濡れた賽ノ目の半兵衛のレビュー・感想・評価

濡れた賽ノ目(1974年製作の映画)
3.0
若松孝二監督はよく左翼云々で語られることが多い(この人の本を読むと大抵そういう思想が絡んでくる)が、この監督の本質は限られた予算と日数を守ってプロデューサーの注文にこたえ、脚本の世界を忠実に再現しなおかつ自分自身の思いを巧みに入れる職人監督だと思う。この作品も荒井晴彦(出口出名義)ならではの疲弊した中年男女の葛藤と若いカップルの対比を乾いたタッチで描いた脚本の世界を見事に再現している。ただ時代の空気を再現している分、見ている人の好き嫌いがはっきりしやすいかも。そして幻の作品と謳われてはいるが、映画はオーソドックスな70年代ポルノ映画なことに注意。

話の内容も60年代安保や大学闘争の挫折の空気を引きずるような主人公の中年男女(劇中ではかつて駆け落ちを約束したものの男に裏切られた設定)のドラマに比重が置かれ、若い方のカップルは彼らの引き立て役としか描かれないので物足りなさが残るのも事実。あと若いカップルが密航でシベリアへ行くことを夢見ている設定になっているが、海外への脱出願望はともかく寒いシベリアになぜ行きたいのか全く描写されないので見ている人が今一感情移入しにくいのも難点。まあ海外へ行けばなんとかなるだろうという若者の思考を暗に批判しているのかもしれないけれど。

唐突なラストも70年代らしい空気を感じさせる。

脚本をはじめ、撮影の小水一男(ガイラ名義)、音楽の近田春夫、助監督に斎藤博、メインの根津甚八、助演に山谷初男、山本昌平、篠原勝之など妙に豪華な面子が揃ったスタッフ・キャストがインパクトがある。特にデビューしたばかりの根津の、ぎこちなさと初々しさがある演技は見もの。

ちなみに今作は日活ロマンポルノの買い取り作品(二本や三本立てといった興業を維持するため外部のピンク映画スタッフが作った映画を買い取って上映すること)で、東映ポルノ(東映セントラルフィルムもピンク映画を上映する会社としての側面を持つ)と関わりが深い若松にとって珍しい作品になっている。
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