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エイブのキッチンストーリーのzhiyangのレビュー・感想・評価

3.0
雨降って地固まる系の普通のハートウォーミング譚。イスラエルのパレスチナ侵攻後の今見ると、それがなんとも悲しく、なんとも大切に見える……。チコがエイブにかけた言葉のなかに「料理をフュージョンするときは素材の土地を意識する、まずは同じ土地同士の食材を使ってみろ」的な台詞があったと思うが、思いがけず政治的になってしまった。というより、料理ひとつとっても歴史と文化をめぐって対立してしまうのだろうが……。

Z世代の主人公らしく(?)、リアクションやハッシュタグをこれでもかと大きく映す徹底したSNS風味な画面に、85分なんてサクッと見れるまとめかたがまず素晴らしい(終盤はわかりあえなかった両家が急速に和解しすぎだろとはちょっと思ったけれど)。この気軽さがむしろ良い。思えば料理というものはとことんSNSに投稿されたものでもあり、つまりこの映画は"映える"。生板を叩く包丁の音も音楽のようだ。今どきの心地よい刺激に溢れている。

あとチコがもっと大きな役割を果たすのかと思ったら、大きなヒントを与えるが意外と出番が少ない。あくまでギクシャクとした親子三世代のホームドラマであり、自分が何者か探る子どもの成長譚になっている。肩透かしといえば肩透かし。とはいえ、主人公からしたら家族に仲良くしてもらい、自分は自分らしくいたいという目的は最初からはっきりしているし、そんなもんだろうか。

この映画、パレスチナ出身の父とイスラエル出身の母の間に生まれた子が主人公となっているが、実はムスリム(パレスチナ側=父方の家族)の生活の描写はほとんどない。父も結婚を期に棄教したという設定らしい。対して母方はユダヤの成人式の描写があったりなぜイスラエルからアメリカに移り住んだのか祖父が主人公に語っていたり、こちらのほうがリアルさを感じる(唐突に挟まる成人式のトイレでカツアゲにあうなんてシーンは実際にあったorありがちな話なのでは?)。監督はカトリック系ブラジル移民とユダヤ系にルーツをもつらしい。脚本やフードコーディネーター?にはパレスチナ系も参加しているらしいが、監督の出自が料理以外で撮れるもの・撮れないものに反映されているのでは? それがこの映画の誠実さでもあり、限界でもあるように感じた。
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