せいか

パーム・スプリングスのせいかのネタバレレビュー・内容・結末

パーム・スプリングス(2020年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

9/26、AmazonPrimeにて視聴、字幕版。
あらすじからは間延びしたループものかと思って油断しつつも観ていたが、どっこい、(やや引っかかりはあるが)面白い作品だった。全体的にコメディーのテンポで貫かれているが、そのノリも好きな感じだったので、幾度かケラケラ笑いながら楽しめた。

舞台はある結婚式。既に実は果てしなくループを繰り返していたナイルズといい感じになったサラだったが、結果、彼に巻き込まれる形で自身もこのループに囚われることになる(そして実はもう一人、ロイという男も巻き込まれているのだが、ここでは端折る)。ループに倦んでいたナイルズもサラという仲間が出来て、二人はループ世界でささやかな無双状態を楽しんで過ごすが、お互いに対して深く好意を持ち始めたことでその安寧も終わる。サラはこの結婚式の日の前夜に妹の夫となる新郎と一夜を共にする不貞を働いており、目覚めるたびに突きつけられる罪の証に耐えられなくなるのである。
ナイルズのほうは、ループ世界に囚われてさえいれば、明日の人生を心配するような生からは少なくとも開放されるのだからとそこに甘えようとするが、サラはループの最初にこの彼本人から言われた、ループ世界の人生は二人きりの世界に等しく無意味であることを言い返し、一人、彼女を探し求める彼からは逃れて、パソコンと本を手に出奔し、カフェで量子力学などを一から学び始め、ループを利用して遂には学者レベルまでその理解を進めた果てに、このループから抜け出す方法を見出す。そして二人は紆余曲折の果てにループを脱し、共に明日を生きていくのだった。

といった話だったのだが、とにかく全体的にテンポがいい。ループものはいかんせん繰り返しの世界なので退屈になりがちなのに、そうした感想を持たせない作りになっているのもすごい。二人ともループは朝の目覚めから始まるのだが、このときに繰り返される「WAKE UP」もなんだか心地良い。
でも、本作でも示唆されてはいたと思うけれど、目覚めては同じようなことを繰り返すのはループに限らない現実でもあって、この虚無感や人生の孤独感とどう向き合うのかという話であったのだと思う。本作ではその答えはループを終わらせる直前の洞窟の前での二人の掛け合いに込めていた。どうなってもいいからあなたと共に居たい。うんざりなんてもう既にしてきている。期待値を上げて捉えようとしないほうがいい。──特に最後の部分はなかなか捉え方によっては危ない気もするけれど、概ねアンサーとしてはいいのでないか。

無限に同じ1日を繰り返すことができるから、今この時点までにある資料からいくらでも学ぶことができるというの、ちょっと観ていて羨ましかった。リセットされても記憶はリセットされないからどれだけの亀の歩みでも研鑽を積むことができる。考えるまでもなくループに囚われるのは地獄みたいなものなのでそうなりたくはないけど、そこだけは羨ましく思った。
あと、戦うことにしたサラがとにかくかっこいい。

サラがループから脱したくなったときにナイルズに言っていた、ループ世界で二人きりだから私を選べるだけで、通常の世界だったら、それでもそんなことが言えるのかみたいなのも、人間の孤独を言い表していて好きなシーンだった。閉じた世界で相手のことしか見えないから一途になれるのではないかという。これもループ関係なく現実でも言えることだと思う。視野を狭くして相手を見ているだけではないのか、開けた世界の中で捉えようとはしていないのではないかという。恋が前者だとして愛は後者なのだろうな。恋愛に限らない話ですが。

肝心のループに関しては、本作においては平行世界的なものはなくてあくまで一本の時間の矢のようなものの中の起点を固定させて状態でループしているという設定ではあるのだけれど、ループしていて、それをああいうふうに認知している人間が複数いて……と考えると、破綻しているようには思った。世界線が一つきりだとして、ループ内での終点地点とかが曖昧というか、複雑になるというか。意識を放した時点で起点に戻るということなので、生命体である以上、どう頑張ってもいつかは起点に戻るからそこはトントンでどうでもいいのかもしれないけど。とはいえ、ループ脱出後にしてもロイという三人目のループしてる人がそのままループ世界にいるので話がややこしくなると思うのだけれど(エンディング途中で彼は二人が無事にループを脱したことを知る描写があるのだが)、本作はそのへんもいささか強引にまとめているのみである。
そのへん考えなければなあなあで観れないこともないが、このへんの肝心の物理学的なことというか、時間SF的なことというかは、観ていて私はずっと引っかかりを覚えていた。

とはいえ、繰り返しになるが、最後まで楽しめた作品だった。
せいか

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