ジェイコブ

実録三億円事件 時効成立のジェイコブのレビュー・感想・評価

実録三億円事件 時効成立(1975年製作の映画)
3.5
競馬で作った借金が原因で、家具も全て抵当に入れられ、妻とともに貧しい生活を送っている西原。悪知恵だけは働き、農協を脅迫して大金を得るも、すぐに競馬に使ってしまう。そんなある日、信託銀行が冬のボーナス三億円を現金輸送する情報を嗅ぎつけ、妻とともに強奪計画を企てる。計画は見事に成功し、警察が初動捜査を誤った事もあり、西原が捜査線上に浮かぶことは一切なく、6年の月日が経とうとしていた。そんな中、西原に切れ者の刑事葛木が目をつける……。
東映ポルノで知られる石井輝男監督作品。実際の三億円事件から着想を得て書かれ、本作の特筆すべき点は、三億円事件の時効成立まで2ヶ月を切った日に製作を発表し、クランクインしている所だろう。公開まで時間がないため、監督の石井輝男を中心としたチームが脚本製作のための下調べを急ピッチで行い、タイトルも警察が犯人を捕まえられず時効を迎えると見越してつける大胆さ。本作の犯人西原にはモデルがいて、東映チームは独自の視点から、動機はギャンブル絡みではないかと見立てた。犯人役には当時の東映社長岡田茂の息子、岡田裕介が演じており、渡瀬恒彦や中尾彬も候補に挙がっていたという。
三億円事件は未だに語り継がれる昭和の未解決事件の一つであり、様々な憶測や犯人像が浮かび上がっている。ドラマ化もされたクロコーチでは、三億円事件の背景には戦後から続く警察組織内部の闇組織桜吹雪会が関わっており、事件で取られた三億円はその後様々な形で姿を変え、ロッキード事件などを引き起こし、日本の政治中枢にも影響を与えたという大胆な見方をしている。そもそもこの事件は、単独犯か複数犯によるものかという点もハッキリしておらず、謎が多すぎる。そのため、時効が近づくに連れて焦る警察による無茶な取り調べが横行し、疑われた無実の人がそれ苦に自殺したり、容疑者とされた事でその後の人生が変わってしまった人もいた。本作のラストは映画として見れば非常に消化不良でスッキリしないものであるが、それが時効を迎えた現実の事件とリンクしており、誰一人幸せにならなかった本作の事件の核の部分を浮き彫りにしている。
制作から公開まで時間がない上、ネットもない当時、これだけ精密な脚本を作った制作陣の熱意と調査力には恐れ入る。