せいか

83歳のやさしいスパイのせいかのネタバレレビュー・内容・結末

83歳のやさしいスパイ(2020年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

9/10、AmazonPrimeにて視聴。
タイトルの原題「El agente topo/The Mole Agent」は訳せば「スパイ代理人」とか「目が殆ど見えていない(間抜けな)代理人(またはスパイ)」みたいな意味になるのかなと思う。どちらの単語もスパイを意味するものではある。

ある探偵が老人ホームに住んでいる母親が暴行を受けているのかもしれないという依頼を受け、侵入操作してもらうために高齢者を募る。それで選ばれた主人公が期間限定でそこに滞在し、依頼をこなしながら老人ホームの滞在者たちと交流を深めていくという話。
このため、登場人物たちは殆どが高齢者で構成されている。台本らしい台本があるというよりも、実際の老人ホームをドキュメンタリー的に撮影していると言えるものであるため、現実の展開に台本が合わせてあるという作りをしている。冒頭、主人公が老人ホームにやって来るときに、撮影スタッフなどもあえて画面の中に登場させており、老人たちも、何かは知らないが映画の撮影をしているらしいということを認識していることも伺えるようになっている。
(参照:スペイン語版ウィキペディアの「Producción」の項目 Los personajes son los residentes del hogar San Francisco (El Monte, Región Metropolitana de Santiago), y la película se adaptó a ellos, más que ellos al proyecto. )
作中で亡くなっている女性に関しても現実に起こったことがそのまま作品の中に取り入れられている。
つまり、だいぶ現実に即して老人たちを捉えた作品であり、作中の彼らおよび彼女たちの言葉はフィクションの上で成り立っているものばかりではないという、なんだか現実と作り事がごっちゃになったような世界が構築されているのである。
老人ホームだからできる撮影方法ではあるけれど、なかなか残酷なことをしているようにも思うというか。人間を捉えるために撮影しているし人間的な内容ではあるのだけれど、その根本で相手がtopo(または英語ならmole)であることを利用して成り立っているわけで……。

作品は次第に老人(主人公)が老人をケアするようなものとなり、とにかく「老い」というものに注力していく。彼はスパイとして振る舞うよりも一人ひとりの人間に対して向き合ってその内面を映し出す。
最後には、その孤独がどれほどのものであるかと結論付け、ここには何の罪も起きてはいない。気になるのなら依頼者自身がここを訪れて探るべきで、そうやって家族として彼女と触れ合うべきなのだ。そして私も外の世界に家族がいるから帰らせてくれと結論付けたのがつらい。老いはつらい。作中、それによってどんどん社会や家族から爪弾きにされてこの老人ホームまで流れてきたこと、会いに来る者もいないことを打ち明けたり暴かれたりする人々で溢れているのだけれど、老いは、つらい!!!!ただでさえ何歳であっても生きるのはつらいのに。つらい。(冒頭のスパイ候補面接シーンからして老いの身と社会の摩擦はこれでもかと出されていたのだけれども。)
そして家族との絆みたいなところを孤独を和らげるよすがとして描いているのも個人的にはつらい。

主人公は老人たちに親身になってケアと言えることもするけれど、どのシーンでも、もちろんその面倒を見るというわけではないんだけれど、どこか「自力でそれをやりましょう」みたいな断絶があったのがチクチクしていた。この辺はお国柄とかそういうのもあるのかもしれないけれど。親身なのにどこかドライというか。孤独に身を寄せて寄り添うわけではないんだよな。そういう対応含めてどこまでも老いとか関係ないところでも現実の人間関係という感じで、救いはないんかと震えるばかりである。生きるのはつらい。つらい!!!!!!!


あと、作中で主人公たちが食べていた、白くて四角い、餅みたいになんかもちゃもちゃしてそうな謎の食べ物が何だったのかが気になる。
せいか

せいか