空海花

僕が跳びはねる理由の空海花のレビュー・感想・評価

僕が跳びはねる理由(2020年製作の映画)
4.0
東田直樹のエッセイ「自閉症の僕が跳びはねる理由」を元に製作されたドキュメンタリー映画。
監督はイギリスのドキュメンタリー作家ジェリー・ロスウェル。
東田が13歳の時に執筆したその著書は
今まで理解されにくかった自閉症者の
内面の感情や思考、記憶をわかりやすい言葉で伝えた内容が注目と感動を集め、
34カ国以上で出版。世界的ベストセラーとなっている。
英訳したのはデイビッド・ミッチェルとその妻ケイコ・ヨシダ。
夫妻は自閉症の子を育てていて
彼自身も映像に登場し、その思いを語ってくれる。
2020年サンダンス映画祭、ワールド・シネマ・ドキュメンタリーコンペティション部門で観客賞を受賞。
ようやくこちらでも上映開始。
東田さんのビデオ舞台挨拶付き上映回。

自閉症者が見て、感じている世界はどういうものか。
インド、イギリス、アメリカ、シエラレオネで暮らす5人の自閉症者の姿と
両親のインタビューも交えつつ
その世界を映像・音響化した作品。

ジャケットからしてセンスに溢れていて
鑑賞後もその映像・音響は余韻を残すものとなった。


ドキュメンタリーなので、ネタバレというのも変な気もしますが
以下内容に触れます⚠️




見えるものはまず細部からであること
記憶は線ではなく点であるということ
思い出せばその時の感情も鮮明に押し寄せる。
辛い記憶は忘れたり、薄れるから
自分はやっていけるけれど
印象度が変わらないとなると…
恐怖心に包まれる。
地域によっては、悪魔や魔女と言われることも。
分かり合うには理解し合わないと。
それにはやはり会話、コミュニケーションが大切だということ。

言語療法士の方とのエピソード。
文字盤を使うと、手の動きが助けることで、
頭だけでは霧散してしまう言葉を紡げるようになった。
こちらにも視界が広がったような
明かりが灯ったような感覚が押し寄せた。
東田さんもこれを使っていた。
これまで会話は難しいと思われていたが
話していることをきちんと理解しているし、操る言葉も単調なものではない。
このエピソードには驚きと発見、感動もあった。
だが、最も大切なのはやはり寄り添い、コミュニケーションを取って、分かり合おうという気持ちだということ。
日常を絵で表現する子も居た。

それでも親が自分が居なくなった時のことを吐露する姿に胸がしめつけられる。

『ファーザー』では認知症患者の世界を体験させられたが
ここでは自閉症者の世界を垣間見ることになった。
かといって実際の苦労を理解するには到底及ばない。
それでも理解への小さな一歩にはなると思う。
あたたかくも、粛々と描く姿勢がそれを助けてくれた。

合間に少年の映像が何を言う訳ではないが語り部のように入る。
その子が自分であるような
あるいは我が子であるような
そんな思いにさせられる。
自閉症であっても、そうでなくても、きっと。

“普通”という言葉がとても印象に残る。
自分にとってはこれが普通。
私は実は、この言葉を自分以外に使うのはなるべく慎重になろうと思っている。

東田さんは、障害の有る無しにかかわらず、人は努力しなければいけないし
努力の結果幸せになれることがわかった、と語っている。


2021レビュー#109
2021鑑賞No.205/劇場鑑賞#17
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