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僕が跳びはねる理由のカポERRORのレビュー・感想・評価

僕が跳びはねる理由(2020年製作の映画)
4.3
とてつもない衝撃だった。
開始30分。
私は彼らの感じる不安をほんの少し体感しただけで、恐怖のあまり涙が込み上げてきた。
自閉症。
私はその障害を全く理解していなかった。
電車の中で大声で叫ぶ彼らを不憫に思うことはあっても、何故彼らが叫んでいるのかを考えたこともなかった。
彼らが意味不明な言葉を叫ぶことに、理由なんてないと勝手に決めつけていたのだ。
違う。
彼らをそうさせているメカニズムは、歴然としているのだ。
彼らは無知でも愚かでもない。
無知で愚かなのは私の方だった。

本作は、自閉症という障害を抱える作家・東田直樹氏が13歳の時に執筆したエッセイ『自閉症の僕が跳びはねる理由』をもとにしたイギリスのドキュメンタリー映画である。
原作は世界30カ国以上で出版される大ベストセラーとなり、自閉症と呼ばれる彼らの世界はどのように映っているのかを、多くの人が知るきっかけとなった。
映画版では、世界各地の5人の自閉症の少年少女にフォーカスし、その家族の証言を交えながら、彼らの心の内面を画期的な技術で映像化している。
つまり、鑑賞者は本作を通じて、自閉症者の見ているもの・聞いているもの・感じているものを、疑似的に体験することとなるのだ。

本作と同年に製作・公開された『ファーザー』も、その斬新な映像表現で認知症患者の見る世界を見事に描出していたが、こちらは自閉症者本人を映し出すドキュメンタリーのため、衝撃は桁外れだった。
作中の台詞(解説)を、以下少しだけ書き出してみよう。

「時間はずっと続き 区切りがない
だから戸惑ってしまう。
今言われたことも
ずっと前に聞いたことも
僕の頭の中では
あまり変わらない。
みんなの記憶は たぶん
線のように続いている。
でも僕の記憶は 点の集まり。
その全部がバラバラで繋がらない。
困るのは 古い記憶が
時に生々しく
頭の中で再現されることだ。
その時の気持ちも
よみがえってくる。
突然の嵐のように。
次の一瞬
自分が何をしているか
それが いつも不安なんだ。
何かをしたくても
どうしても できない時もある。
体が 別人のもののように感じる。
壊れたロボットを
操縦しているようだ。
絶望感から
パニックになることもある。
何か失敗すると その事実が
津波のように押し寄せ
逃げようと必死でもがく。
気がつけば 残っているのは
僕が暴れた跡だけ。
自己嫌悪に陥る。」

イギリスの自閉症者ジョスの日常を映しながら、その場面と連動するように、上述の東田氏の文章が解説として流れる。
フラッシュバックする幼少期のジョスの生々しい記憶。
もしも…
信号待ちの歩道で…公園の片隅で…駅のホームで…混み合うバスの中で…そう、日常の様々な場面で、突然、壊れたスライドのようにそれらおびただしい記憶の断片が脳内でランダムに映し出され、その時の感情までも呼び覚まされたとしたら…自分だったら果たしてどうなるか…

   私は、何処にいても、きっと、
   大声で、一心不乱に
   叫んでいるだろう。

一人でも多くの人に本作を観て欲しい。
何より、義務教育の現場で、説教臭い再現ドラマの人権ビデオを垂れ流す前に、子供達にまず本作を見せて欲しい。
それと同時に、この原作エッセイが、会話もままならない若干13歳の日本人の自閉症者の手により執筆されたことをしっかりと伝えて欲しい。
私は彼と同じ日本人であることを、心から誇りに思う。
自閉症の方々への偏見が、一日も早くこの世からなくなるよう、心から願って止まない。

本作未見の方は、是非とも御鑑賞頂きたい。
『僕が跳びはねる理由』は、現在U-NEXT、Huluで配信中。
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