ちろる

サンドラの小さな家のちろるのレビュー・感想・評価

サンドラの小さな家(2020年製作の映画)
3.8
それは【メハル】の精神で生まれる小さな家

メハルとはアイルランドの古代からの精神で、
皆で集まって助け合う事 結果自分も助けられる事。
人は1人では生きてはいけない。
本当に困ったときに誰かを頼るのは間違いではない。

アイルランド・ダブリンを舞台に、住む場所を失った母親と子供たちが、自分の手で家を建てようとするヒューマンドラマ。

DVの旦那から命からがら逃げてシングルマザーとなったサンドラ。仕事は掛け持ちで働くも一向に生活は豊かにならず、本来、あてにできる行政も、当てにできず、子供がいるのにホームレス状態で仮住まいのホテルではロビーを横切る事も許されない酷い扱いを受け、頼れる知己もおらぬ孤立無援の状態。サンドラの精神はパ笑顔すら忘れさせててしまった。

サンドラの不幸状態は、まるでケン・ローチ監督の主人公を思い起こさせるほどに見ていて辛い。

しかしそんなパツンパツンの中で見つけたのは、土地さえあれば誰でも家を建てられるというネット記事。
お金もない、サンドラにとって無謀に見える計画だったものの、清掃人として働いている家のペギーや、偶然知り合った建設業者のエイドらの協力もあり、彼女はマイホーム建築に着手する。

サンドラのフラッシュバックとして元夫に殴られるシーンが入り、更に目まぐるしい日々にイライラするいっぱいいっぱいのサンドラを見ているだけで苦しかったけれど、彼女には私にない学ぶべきものが多くある。

その中でも一番は、とにかく家を建てると一度決めたサンドラの発揮するバイタリティがすごいのだ。
少しでも望みがありそうなママ友など出会った人達に声を掛け、週末ボランティアを募り、次々と巻き込んでいくその強さには驚かされる。
そしてそれを受ける人々の優しさにも心が突き動かされ、見返りなど求めずに支え合う彼らの姿を見て、自分もこう言う人間でありたいと思わしてくれる。

ちなみにこの映画もいくつかのきっかけが奇跡のように重なってできた作品で、まず主役兼、脚本のクレア・ダンの親友がシングルマザーでホームレスとなってしまったと連絡を受けて、社会の片隅で頑張るシングルマザーをスポットを当てて、初めての映画の脚本を書き始めたのがきっかけなのだという。

脚本作りにフィリダ・ロイド監督の助言を受けたのちに、有力製作陣の力を得ることができ、自らの主演で作り上げた魂の一作といえる。

そんな背景を知ってから観る事で、よりサンドラに感情移入してしまう本作であるから、後半、希望から悪夢に突き落とされるまさかの展開に呆然としてしまう。
わかりやすいハッピーエンドではないこの脚本に文句を言う人もいるだろう。

しかし小さな家を作ると決める前と決めた後、サンドラの手のひらにある愛の数は確実に違うはずである。
大切な人が多くなった彼女の背中はもう昔の弱々しい姿ではない。

そして絶望の最中、もう一度歩き出す希望への一歩に背中を押すのは2人の可愛い天使。

その一歩が絶望ではなく、彼女たちが安心して過ごすための一歩になりますように。
いつのにか描かれないあの先にキラキラとしたサンドラたちの小さなお城を思い浮かべていた。

アイルランドやイギリスにはサンドラのような人たちが沢山いるという。この映画を観た人たちの『優しさ』が伝染して、サンドラのように苦しむ人たちを救う力にどうかなりますように。

【メハル】の精神が世界中に息づきますように。
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