TaiRa

ホース・ガールのTaiRaのレビュー・感想・評価

ホース・ガール(2020年製作の映画)
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主観で描く統合失調症、あるいは真実(≠事実)への優しい眼差し。

アリソン・ブリーの自伝的物語だが、要素としてカート・ヴォネガット『スローターハウス5』が代入される。祖母は統合失調症、母は鬱病を患ったブリーの経験を主人公に反映。いつか自身も同じ様になるのではないかという不安を抱えて生きている。「あなたは祖母に似ている」という言葉が呪いとなって。統合失調症は遺伝性がある(あくまで要因の一つ)という話も背景にあるかと。血縁からは逃れられないから、一度それに恐怖を抱いてしまうとどうする事も出来ない。その怖れはよく分かる。自分もよく「祖父に似てる」と言われた。祖父はアル中で、素面でいる所を見た事がなかった。結局、脳溢血で死んだ。ワンカップ大関を見ると祖父を想い出す。性格的にも内向的な人で、頭は良かったが職は転々としてたらしい。祖父の事を考え、ふと自分もそうなるかも知れないと思ってから酒を控える様になった。ブリーがこれを書いたのも理解出来る。セルフケアとしての物語化。だから、今作はほぼ全て主観で描かれる。現実と妄想の区別がつかなくなって行く段階や初期症状など、丁寧に描かれている。時間感覚の喪失など、錯綜表現もスリリング。夢の中の混沌も。青とピンクの色使いも示唆的。突飛な妄想世界であっても当人にしてみれば「真実」でしかなく、それを他者がジャッジする事は出来ない。それを受け入れた先にある平穏も、紛れもなく「真実」である。事実でなくとも。そしてそのベースにヴォネガットを持って来る。『スローターハウス5』もヴォネガットにとってはセルフケアだった。
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