友二朗

ナイトメア・アリーの友二朗のレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
4.3
「罪人よ 己を姿を見ろ」

人間からの転落。
死者と逢う方法。

間違いなく傑作を観た。
全身全霊で御伽の世界を浴び続け、何度震えたか分からない。

妥協のない美術・衣装が魅せる唯一無二の世界観をミュートで観るだけでも楽しいが、今作は物語が抜群に面白かった。

正直ギレルモ・デル・トロ監督作品はあまり好きではなく、アカデミー賞発表をより楽しむために観に行った。なんとおこがましい考え。自分は馬鹿野郎です。最高の作品、最高の映画体験でした。

「長い」という意見をよく目にするが個人的には飽きたり切るべきと思う瞬間はこの150分間の何処にもなかった。

宗教的要素について自分の学のなさで理解し切れないものはあったが、それが逆に自分の中に残る奥行きに変換された。もはや何されても「ええやん」と言える状態。

スタンが持つ父親に対する『エディプス・コンプレックス』。リリス博士が持つキンボル判事に対する、もしかしたらエズラに対してかもしれない『エレクトラ・コンプレックス』。この対照的な二つの屈折した異性願望が対で位置するのではなくねじれの位置にある。この構造がまたリリス博士の動きとリンクしてて唸るしかない。

無意識のうちに抑圧していた何かが表に顕現する瞬間。キャスト陣の素晴らしい演技も相まって画面の縁を飛び越えそうなほどのオーラを放っていた。

最近の映画でアイリスアウト使ってるの珍しい。というかここ十年くらいアニメ以外でほぼないんじゃないかな。適当な事言えんけど。なんかより御伽噺っぽい演出で良かった。

美衣装に関して、地獄の家のデザイン、あの怖さったら最高だしリリス博士の服と事務所がほんとに豪華で眼福だった。ジーナの髪型すんごいな。

アカデミー作品賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞の4部門にノミネートされているが衣装デザイン賞は自分の観た中ではこの作品。

ケイト・ブランシェットの登場シーン、オーラやばすぎ。最後までそのオーラに見合ったキャラデザインでこの人しか演じられないと確信できる。

言葉と数字の暗号術に関心した。
理解したところで使うの難しい。

「生きてはならぬ運命」
ギーク(獣人)の作り方とエノクの下り怖すぎやろ。クレム/ウィレム・デフォーがサイコパス過ぎて幸せ。スタンにかける優しさみたいなものや、狂気を狂気と思っておらず、自分のヤバさを当然のように説明してしまうシーンなんかは「あこいつヤベーや」と思わざるを得ない。

このキャラが印象に使われて終わるのではなく、その派生がどんどん繋がっていく気持ち良さがあった。

旧約聖書第5章21節〜24節『エノクは神と共に歩み、神が彼を取られたので、いなくなった』つまり死なずして天に昇った存在エノク。観ているうちはその必要性が不気味要素以外に感じられなかったが、観終わった後にハッとする。ネタバレになるので文の最後に書いておきます。

令状、靴底、メダイ。
警察の時間稼ぎワクワクシーン良し。
メリーゴーランドでのダンスシーン良し。
お酒の扱い、タイミング超良し!

クライマックスで雪の中を車で突き抜けるシーン、特に林道の部分、数秒にも満たないが、その画が美しすぎて溜息が出た。そしてやはりラストカット、ブラッドリー・クーパーの心震える演技は必見。この2つが1番好きなシーンだった。

観終わった後に予告編の素晴らしさに気付かされる。何がとは上手く説明できないが隠し方、魅せ方が奥深い。

精神診断って結構なんでもあり。
「シャッター・アイランド」でも思ったけど、精神科医敵に回したら人生終わる。

もし自分が禁煙中だったら拷問のような作品。
深々と椅子に身体を預けて煙草にマッチで火を付ける。完璧な静けさの中でもう一度この映画を頭で咀嚼する時間が今日という一日を豊かにしてくれる。

観終わった後もしばらく自分の眼が捉える色彩を変えてくれる映画らしい映画。

極めて上品で奥深い世界。
観て良かった。

長くなりましたが
読んで下さってありがとうございました!

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「科学的な興味と教育的な意義のため」

「これは人か?獣か?」

「過去の闇が付き纏う」

「私を描いたの?」
「頭の中を君を」

「君に"この世の全て"をあげる」

「新しい獣人が見つかるまでの間だ」

「現実が見えなくなる」

「共にこの街で大きく仕掛けよう」

「絶対、またその言葉」

「羽振りがいいのね」
「中身は同じだ。外面が違う」

「貴方は善にではない。俺には分かる
 俺も同類だから」

「何があった?」
「人生よ。人生の不運」

「私には必要以上の金はあるが希望はない」
「金で希望が買えると?」

「日曜に牧師がやってることと同じだ」

「見合ったものを寄越せ。罪悪感以外の」

「貴方に欠ける何かを私には埋められない」

「俺にはそれが運命」

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⚠️ネタバレ注意⚠️



解説を読んできたが、エズラ・グリンドルの息子こそがエノクであるという推察を読んで鳥肌が立った。昔エズラが傷つけたドリーのお腹にいたのがエノクであり、エズラへの復讐としてスタンに呪いをかけたと。

「幽霊ショーを辞めろ」
物語が直接霊的なものを否定しているがエノクの存在により超常的な雰囲気も残される。この終わらない余韻がたまらない。

ジュリアン夫婦の銃のシーン、心臓止まるかと思った。思い切り油断しててビクッ!ってなった。
友二朗

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