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ナイトメア・アリーのsomaddesignのレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
5.0
悪夢の迷宮に絡めとられる感覚。最初から破滅するしかなかった男の話かも。

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野心にあふれた流れ者の青年スタン。当てなく彷徨うある日、正体不明な生き物を見せ物にする怪しげなカーニバルの一向に拾われる。一座の仲間から読心術の学んだスタンは、人を魅了する天性の才能と、カリスマ性を武器にたちまち人気メンタリストとなっていくのだが……。

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自分には難易度高め。難解。奇奇怪怪。
自業自得のトラジコメディのようであり、避け難い人間の宿業の物語でもある。
スタンはどこで道を間違えたのか……ってより、詰んだ状態から物語が始まってる気がする。どう進んでも地獄しかない。藤子不二雄Aの世界っちゅーか、辰巳ヨシヒロのダークな劇画世界に迷い込んでいく気分。


デルトロ監督の超自然的ファンタジックはなくて、どんどん悪夢の袋小路に追い詰められていく。見せ物小屋的サスペンススリラー。
ウィリアム・リンゼイ・グレシャム「悪夢小路」(1946年刊)を原作とした二度目の実写映画化。一度目の映画「悪魔の往く街」(1947年)は全く知らなかった。当初はレオナルド・ディカプリオと出演交渉していたものの、交渉が不調に終わる。が、代わりにブラッドリー・クーパーと出演交渉が始まると、デル・トロ監督とクーパーがすぐに意気投合。クーパーの自宅で役柄について語り合ったという。


流れ者が居場所を見つけて、自分自身を確立していく前半部。寡黙な男が世界を広げて饒舌になっていく明るさと危うさ。光と影入り乱れた見世物小屋の入口にいる感じ。
対して後半は、モンスター化してくスタンを触媒として、怪物同士の化かし合いの様相。他人の心を操る者同士が対峙し、共犯関係のようで絶対相入れない関係性がリアルかつ悍ましい。

のっけから浮遊感っちゅーか現世ならざる世界観で、スタンの過去か妄想か分からない。もしかしたらリッター博士の幻惑のせいか分からない。あらかじめ決まってた破滅への道に、知らず知らずに絡めとられていく空気感こそ見どころ。デルトロ過去作のモンスターと違って、今作のモンスターは一見普通の人間なのがミソ。

デルトロ監督作らしく、彩度を抑えた原色よりのカラーリングが素敵。調度品から衣装まで相変わらず凝りまくり。中でも個人的に好きだったのは、ホテルのソファや小道具の緑。前作「シェイプ・オブ・ウォーター」に続いて、水藻を思わせる独特なグリーンが不穏で素敵だった。

スタンを演じらブラッドリー・クーパー。人に言えない秘密と後ろ暗い過去を感じさせる佇まい。ラストショットの破顔一笑。字幕だと「それが運命です」って出てたけど、「I was born for it」てセリフと職探し中で過剰に下手に出てる状況を鑑みると「それこそ天職でございます」くらいがゲスくていい。転じて、初めからそうなるのが決まってる、円環構造の一部なのがわかる。

久しぶりにケイト・ブランシェットの妖艶な悪女っぷりを堪能。最後の方はもう人間か悪魔か分からないくらい、毒々しい美しくておっかなさ。真っ赤な口紅が印象的で、口から獲物の血を滴らせる獣みたいだった。


スタンがものを食べる仕草が、セレブになっても変わらなず下品。
金は持っても、下賎な心根は変わっていない描写になってて良かった。ジャムを塗ったナイフをベロンと舐めるのが嫌らしくていい。食ってるものは高価になってるのに、本質は変わってなくて他人を食い物にすることに躊躇がないし、モリーをガサツに扱ってることの描写に見えた。



22本目・26本目
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