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ナイトメア・アリーのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

父親を殺し、共に家に火を放った男スタンが列車でたどり着いた先は、怪しげなカーニバルだった。獣人ショーや見せ物小屋を売りにするこのカーニバル一座で、スタンはマネージャーのクレムから仕事をもらい、留まることにするが…。

ギレルモ・デル・トロ監督が、豪華キャストで贈る雰囲気たっぷりのフィルム・ノワールの佳作。

スタンはカーニバルでさまざまな人物に出会う。
タロット占いの達人で読心術のショーを行うジーナと、彼女の夫でアルコール依存症のピート、体に電気を流すショーを繰り広げているモリー…。
スタンは、ジーナとピートから読心術の技を学び、めきめきと腕を上げていく。
そして2年後には、モリーを助手として、一流ホテルで富裕層の人々を相手に鮮やかなショーを見せるまでになっていた。

前半は、スタンがのし上がる機会をうかがっていたカーニバルが舞台。
ホームレスが食べ物を求めて獣人に成り下がり、かつて華麗なショーを演じていた夫婦が酒で失敗した過去を語り、落ちぶれた人間を描くことで、見る者に安易な希望を抱かせない。
これまで怪物への偏愛を描いてきたデルトロ監督らしい造形を獣人やホルマリン漬けの胎児に覗かせ、スタンの行く末に対する不安を煽る。

その中で、人を魅了する感じの良さを持つスタンはチャンスに恵まれ、愛し信頼してくれる女性モリーと出会うことが、ダークな雰囲気に一筋の希望として光る。

後半はスタンの栄枯盛衰。
ある日、スタンのいかさまを見破りかけた女性が現れる。
人を惑わす魅力を持つその女性リリス・リッターは心理学の博士だと名乗る。
彼女に興味を惹かれたスタンは、カウンセリングで得た情報を使って一緒に大金を稼がないかと、彼女を誘う。
そして、大富豪のエズラ・グリンドルの要望を受け、亡き恋人を出現させるという大仕事に取り掛かるが、恋人役のモリーの正体を見抜かれて、失敗。
グリンドルとボディガードを殺害したスタンにモリーは激怒し、荷物をまとめて去っていく。
これまで稼いだ金を受け取りにリリスを頼るが全て1ドルの札束にすり替えられ、カモにされたスタンは、警備に追われ街を出る。

酒に溺れて、放浪の末にカーニバルで再び仕事を仕事にありつこうとした落ちぶれたスタンは獣人の仕事を頼まれる。
スタンは「宿命だ」とそれを受け入れて映画は終わる。

強すぎる上昇志向から調子に乗って自ら身を滅ぼす男の転落と破滅。
自分を愛する女たちを利用したつもりが、結局は裏切られてしまう。
自らの悪事のツケを払わなければならなくなる因果応報の物語だ。

スタンの人生の転機となるモリーやリリスは、まるで昔のハリウッド映画のファム・ファタール(魔性の女)。
特にリリス役ケイト・ブランシェットのコスチュームや身のこなしは、往年のグレタ・ガルボやローレン・バコールを連想させる。
妖婦の魅力に抗えぬスタンが自滅するのも仕方ないと納得できるほど。

カーニバルの貧しい芸人たちの暮らしと対比して、富裕層が暮らす街はアール・デコのモダンな美術に、洗練されたファッション。
世界恐慌後の貧富の格差の表現に、時代考証が行き届いている。

惜しむらくは、濃い豪華キャストが仇となり、主要キャラクターが深く描かれなったこと。
名のある俳優たちは、いずれも単独主演を果たせる者ばかり。
「せっかくなので」と、それぞれの見せ場を与えているかのような脚本だ。
読心術のスキルを得たなら、早々に飛ばして良いはずの前半はやはり長い。
スタンが父親を殺してしまった背景、スタンを騙すリリスが結局は金に執着しているその背景がどうも見えない。
悪人たちの人間的な弱さも描かれたなら、多少の共感もできたのだが。
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